「IoTとAIの融合による新たなビジネスモデルへの挑戦」 IoTイニシアティブ2016「IoT・AI・ビックデータがもたらす破壊的イノベーションとビジネス革新」での特別講演

経済産業省商務情報政策統括調整官 吉本豊氏が登壇し、政府が進めるIoT推進コンソーシアムの現状を伝えながら「IoTとAIの融合による新たなビジネスモデルへの挑戦」をテーマに語った。

冒頭、吉本氏は「今、ITの世界で起こりつつあることは、何がこれまで違うのでしょうか。経済産業省が取り組んでいるIoT分野について、政府の立場から考えていることを紹介したいと思います。なかでも、IoT推進コンソーシアムの活動について説明していきます。日本はここ一年、やや世界に遅れ気味の状況です。日本が先を行くためにどのような手を打つべきか、そのために何をしなければいけないのか、そんなことを考えながらお話します。」と述べた。

はじめに指摘したのはディープラーニングの進化についてだ。吉本氏は「ビッグデータ、IoT、AIで行われていたことがディープラーニングの進化によって、2012年からITの世界を変えてしまいました。さらに新しいことも起こりそうな状況です。ディープラーニングは一言で言えば、人間がルールを与えて、人間が教えなくても機械学習するAIです。もともとこうした理論はありましたが、より現実的になり、ルールを与えると機会学習していきます。プログラマーの賢さの勝負だった時代とは全く異なります。例えば、先端研究を行う研究室のひとつ、東京大学松尾研究室出身の学生がDHDを研究するためにロンドンに移ると、Googleに引き抜かれていきました。どうしてこうしたことが起こるのかというと、より大きな計算資源を持っていたからです。データを持っている方がアカデミックな成果を挙げることができるからです。アカデミズムの先に、行き着くところがあります」と説明した。

 吉本豊 氏の講演内容詳細

またアメリカのFacebookやAmazonに比べて日本が出遅れていることを指摘しながらも、「Yahoo!JAPANよりもGoogle、WhatsAppよりもLINEと、日本は出遅れています。ではやりようがあるのでしょうか。BtoCの世界ではスマホ、パソコンなどのデータセンター中心です。インダストリアルの世界になると、産業、交通、エネルギーの現場でデータの所在が問われます。データの使い方次第ではまだまだBtoC以外のプラットフォームで日本にもまだまだチャンスあると思います。」と前向きな意見を述べた。

 吉本豊 氏の講演内容詳細

経産省では「データ駆動型社会の到来」として、ベースにリアルな世界から新たな世界へ、アナログ情報をデジタル化するレイヤーがあり、その上にデジタルの膨大なデータからインテリジェンスが生まれ、学習するフェーズへ、さらにその上にはインテリジェンスをリアルの世界に戻していく構造があることを描いている。「サイバーとフィジカルが無限にループし、あらゆる産業が循環していくことで生産性が改善し、新しい価値が誕生します。IoTは経産省だけでなく、国土交通省、厚生労働省においても取り組むことであり、IT企業だけでなく、全ての産業で関わっていきます。例えば、Googleは第1弾、第2弾と段階を踏みながらうまくやっているようにみえますが、のんびりしていられたのは壁があったからです。次のステージに進めなかったのです。ただし、壁は崩れかかっていますので、Googleは自動走行、家電AIと、第2ステージまでは征服してします。いろいろな実験に手を出し、トライアンドエラーを繰り返しています。Google自身がそういうことやっているのです。」

続いて、経産省の具体的な取り組みについて説明した。そのひとつがIoT推進コンソーシアムの活動である。これについて「経産省は現在、総務省と民間でコンソーシアムづくりの手伝いを行っています。あらゆる分野で革新的な産業モデルを創出することを目的としています。自動車マーケットが今後、どうなっていくのかは誰もわかりません。これから失われる仕事もあります。一方、どのような雇用が生まれていくのでしょうか。失われる話が先にくると不安になりがちですから、社会が行き着く先に何があるのかビジョンがあることが大事になります。ですから、将来像の共有を新産業構造部会で話し合いを行っています」と説明した。新産業構造部会では2016年4月に「新産業構造ビジョン」をまとめ、2017年春に詳細なロードマップを作成している。

2015年10月に立ち上げたIoT推進コンソーシアムには4つのワーキンググループ(WG)がある。技術開発WGはNICT(情報通信研究機構)を中心に活動し、この他にIoT先進ラボWG、IoTセキュリティWG、データ流通促進WGそれぞれが経産省と総務省のタッグで成果を出し始めているという。「それぞれの活動の方向性はみえてきました。国際的な連携も図り、ドイツのインダストリー4.0やアメリカのIICをはじめ、IoT先進国のイスラエルやインド、日本と関係性の深いASEAN、中国などとも連携強化が必要です。2016年10月のCEATEではIICを招き、基本合意書を結んだところです。具体的な共同活動はこれからですが、何より日本がガラパゴスにならないように努めています。」

 吉本豊 氏の講演内容詳細

WGそれぞれの活動についても説明した。IoT推進ラボでは先進的モデル事業を進めている。具体的には「いろいろなモデル事業を展開する際には資金やパートナー先などの課題はありますが、政府が関与するところでは、規制があることによってできないことなど、ルールがまだ作成されていないようなそうしたところを解決していく役割があります。2015年10月に第1回の会合を行って以来、さまざまな活動を進めています。参加企業に海外企業も多く、GEやIBM、シスコ、Amazon、Apple、BOSCH、シーメンスなどが参加しています。支援内容としては企業と企業の連携や、規制改革などについても一緒に規制省庁、大臣に働きかけています。自動走行やドローン、健康医療などで現在のテクノロジーが存在しない頃のままの規制ルールを見直している状況です。2015年11月の「官民対話」では総理から指示が出ました」などと説明した。

またIoT推進ラボでは「ラボセレクション」「ラボデモンストレーション」「ラボコネクション」という3種類の取り組みも行っている。ラボセレクションはピッチイベントを実施し、資金支援や規制の改革、標準化などを目指している。また連携やマッチングを目的としたものがラボコネクション、ジェネリックなテストベッド実証などはラボデモンストレーションで行われている。ラボセレクションでは2016年2月に252社からファイナリスト15件を選出し、その中からイベント要素も含めてグランプリ、準グランプリ、審査委員特別賞として表彰を行い、事業を紹介する機会も作っている。こうした取り組みの目的についてはこのように説明していた。

 吉本豊 氏の講演内容詳細

「ピッチやマッチング、テストベッド実証を政府がやる意味があります。政府関与しないと実現しない標準化がひとつの理由にあり、政府が関与することによって、複数の会社によるデータ提供も可能するからです。政府がスポンサーとなって、データを集め、規制緩和を進めていくのです。もちろん財源は限られていますが、国家財政を負担しながら、ルールメイキングするのは正当性があることだと思います。ですから、取り組んでいるのです」

また経産省と総務省が一体となって進めているIoTセキュリティWGでは2016年夏に「IoTセキュリティガイドラインver1.0」を策定した。法律家の専門家などと共に会合を重ね、カメラ画像の利活用ガイドブックなども作成している。

最後に、吉本氏はIoTとAIを融合させてビジネスモデルの挑戦に期待を込め、次の通り述べた。

「IoT推進コンソーシアムの取り組みはお祭りのようにみせるかもしれない。それで日本は勝っていけるのかと疑問の声もあるのかもしれません。けれども、超大型クラウドシステムによる中央集権的ビジネスモデルがいいことばかりではありません。我々は分散化をテーマに取り組んでいます。情報を吸い上げ、ビッグデータセンターで解析していくのです。インダストリアル分野は今後、2極化が進み、データや処理も仕方も分散していくのではないでしょうか。いちいちデータセンターにお伺いをしていたら出遅れるいっぽうです。エッジ側に処理能力を持つこともポイントです。つまり、クラウドが身近に下りていく発想が必要なのです。提唱されているフォグコンピューティングのオープンフォグによる「自立、分散、協調型」が将来のひとつのかたちになるだろうと予想しています。もうひとつがバイオ、ゲノムです。これが第5次産業革命となっていくはずです。アメリカでは人ゲノム合成計画を既に進めています。農業、エネルギー応用していくことで問題を解決していくことができると信じています。」

2016年11月4日開催 IoTイニシアティブ2016 講演動画 ※ 2016年11月時の肩書きとなります。

吉本 豊 氏の講演詳細
動画再生時間:48分33秒

Yoshimoto's presentation
動画再生時間:48分33秒

イベントレポートに戻る