特別講演「IICの役割と国際協力・連携の重要性」 IoTイニシアティブ2016「IoT・AI・ビックデータがもたらす破壊的イノベーションとビジネス革新」特別講演
冒頭、ソーレ氏は「インターネットによる産業革命とはどういうものなのか。"インダストリー4.0"という呼び方があり、フランスでは未来の産業革命と呼んでいます。世界中でいろいろな捉え方がありますが、重要なのは経済成長をいかにインターネットが促しているのかということだと思います」と述べた。
続けて、19世紀の産業革命時代を振り返りながら、現在との共通点をソーレ氏はこのように指摘した。
「産業革命によって人間から機械へと大きく変わっていきました。新しい技術が生まれ、鉄道や蒸気船が進展し、従来の雇用がどんどん失われていきました。一方で何百万という新たな雇用も創出していきました。世界の生産性は増大し、産業革命以前より2.5倍増えたと言われています。これは産業革命から得られた結果でしょう。20世紀の後半はインターネットの革命が起こりました。人との繋がりから機械との繋がりへと変化し、生産性は先と同じく2.5倍増えましたが、失われた仕事もあります。アメリカでは紙の新聞は失われ、音楽もレコード、CDが購入されず、交通運輸、銀行など各産業界がインターネットによって大きく変わっていることが想像できます。しかし、19世紀の産業革命と同様に何百万の雇用が創出されていることは言うまでもありません。」
次にスライドを映しながら「2012年に米GEチーフエコノミストが世界のGDPの46%しかインターネットによる産業革命による影響を受けていないと指摘しました。概算で70兆ドル。これが正しいのであれば、ネットに影響されていない残り約40%32.3兆3000億ドルということになります。例えば、シスコはプライベートセクターが大きく変わり、21%増の利益を生んでいます。ガートナーは2020年までに売上3000億ドルを上乗せすることを予測、マッキンゼーは36兆円分の運用コストの削減に励み、それを利益に直結させていきます」と解説した。
こうした動きを背景に、IICの活動目的について「IoT、サイバーフィジカルシステムなどインターネット技術を産業システムに適用するために、セキュリティ企業がネットワーク企業と話し合い、テクノロジーベンダーが銀行と直接やりとりし、そこに学術機関も入っていきます。いろいろな企業が業界を越え、世界のすべての企業が一緒になって探る必要があるのです。そこにエコシステムを構築すれば成果を出せるはずだと思います。インターネットによる産業革命を適用することによって、大きなチャンスがあることを推進していくことが我々の目的です」と説明した。
さらに「今、具体的には何が必要なのか」とソーレ氏は問いかけ、「インターネット技術を適用するために必要なことを学んでいくプロレスが必要です。まだどの分野においても黎明期と言えます。」と述べた。というのも、IICは2014年3月27日に設立されて以来、国際的で中立的なベストプラクティスを知ることを目的に活動している。「失敗する例も出てくると思いますが、IoTのシステムをどのように作るべきかを学んでいます。それが社会の成果に繋がっていくのです」とIICの活動理念を改めて説明した。
設立当初の初期メンバー、シスコ、AT&T、IBM、インテル、ジェネラルエレクトロニックの5社から現在、メンバー企業は163社に広がり、多くの企業が参加している。メンバー企業の約半数が5000万ドル以下の中小企業という。残りは大手、政府、研究機関などが参加している。13人の取締役メンバーは、設立当初から参加する5社と12の組織から構成されており、ソーレ氏もそのひとりである。なお、取締役メンバーは国際的なコミュニティであることをソーレ氏は強調していた。例えば、代表のTuccillo氏はフランスの会社に属するが、アメリカ人。副会長もドイツの会社に属するもカルフォルニア在住で、日本企業である富士通に務めるDurand氏はフランス人でアメリカ在住。現代の企業を象徴するかのような世界的規模のメンバーが集まっていることを説明した。
IICは今、インターネット技術を使った新たなビジネス戦略を考え出そうとしているのだという。ソーレ氏は「IoTを活用し、それを産業システムに応用できることが重要です。柔軟性を実現し、新しいシステムを作り出す必要があります。破壊的変化を起こさなければいけません。昨年9月にはテストベッドを構築するためのフレームワークを作成したところです」と述べた。
さらに現在、27のプロジェクトが進行中であることも明かした。「プロジェクトは2015年2月から取り組みはじめ、日本、アメリカ、中国、インドなど各地で業種もさまざま。インターネットテクノロジーの応用方法を考えるプロジェクトが進行しています。これにより、職場の最適化を図ることができます。より安全な工場を実現することができ、製造状況をトラッキングすることができます。何がうまくいくか、いかないかを検証しています。」
プロジェクトの具体的も挙げた。例えば、通信制御のプロジェクトにはシスコやRTIなどが参加している。日本では東日本大震災の時に関西から関東に電力供給ができなかったが、小さなグリッドにすることで情報共有ができるという。そうすることによって、電力の共有が可能になり、グリッドの中のリソースで共有することができる。風力、太陽光などもそれを活用でき、こうしたことが検証されている。
南アイルランドで進められているプロジェクトでは、中央政府と自治体のリソースの組み合わせを検証している。日本を含めて、ドイツやアメリカでもある課題のひとつである。国家レベルの健康サービスの情報を使いながら、自治体レベルの救急サービスにも落とし込み、疾患情報を事前に共有できることで、連携が図れ、より良い対応ができるという。またIBMは情報監視プロジェクトに参加している。予知保全技術を使うことによって、システムの損失を事前にわかることができるため、航空機に搭載すれば、ジェットエンジンのモニタリングができ、故障を予知することが可能になることを検証している。他にも、農業や東芝によるものビルメンテナンスなどがあるという。
進行中のプロジェクト27件中、21件は内容が公開されている。31カ国が参加し、カザフフサンが追加されたところで、さまざまな分野に広がっていることをソーレ氏は説明した。最後に活動に寄せる想いも次の通り述べた。
「情報を活用し、全ての国と地域でIoTを産業システムに提供することによって、経済発展に寄与します。日本においても国家予算を使い、各地域の経済発展に寄与していく動きがみられます。ドイツ、フランス、アメリカ、中国とそれぞれの国で政府が努力を重ねて、経済発展を試みているかと思います。緊密に連携をとっており、作業内容と見届けていきたいです。システムを連携し、どこでも機能できることによって、世界をひとつにしたいという夢があります。標準化団体はありませんが、標準化は重要です。あらゆるところで機能することが大事だからです。ベストプラクティスを学びながら、標準企画を通じて、相互運用性も実現しなければいけません。多くの業界でインターネット技術を応用したいと思っています。」