北海道・十勝エリアで進む最先端農業IoTの取り組み 国立研究開発法人 平藤雅之氏 IoTイニシアティブ2016でのパネルディスカッション

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構・北海道農業研究センター芽室研究拠点・大規模畑作研究領域・領域長/教授の平藤雅之氏が登壇し、農業とIoTの最新の取り組みが語られた。

平藤氏が所属する研究センターは北海道帯広市にある。はじめにその研究センターがあるエリアの農業環境を説明した。

「十勝エリアのひとつで、平均耕作面積は44ヘクタール。ドイツの平均56ヘクタール、フランスの平均53ヘクタールと同規模になります。一方、夫婦ふたりで100ヘクタールクラスの農業を営んでいるケースも増えています。100ヘクタールクラスになると、アメリカの中小規模と同等になります。日本の農業は小規模なケースが多いと言われるのは関東近辺の高齢化した農業のイメージが大きいからでしょう。十勝エリアは大規模型もあるので前々から関心をもっていました。6年前に筑波からこの地に赴任してから、基本的には管理職が研究することは稀なことなのですが、目を盗んでやらせてもらっている状況です。」

平藤氏

こうした状況のなか、十勝エリアの100ヘクタール規模の工作農業は無人植物工場になりつつあるという。刈り残した部分の雑草化を防ぎ、自動凍結も防ぐRTK-GPSを自動操舵で作業しているケースもみられる。可変施肥システム「CropSpec」の導入も急速に進んでいる。RTK-GPSの利用は農水省の事業として取り組まれているケースもあるが、農家によっては以前から自ら購入している場合もみられるようだ。平藤氏は「十勝はアーリーアダプターが多いことも特徴です。農水省の事業は安心を与えるための実証実験という位置づけに過ぎない」と分析する。導入する機械は一台約25万円とリーズナブルな価格ではないが、年商1億超えの先進農家は古い農機に新技術を搭載し、完全無人走行で使っている。

農業の技術革新が進むこの状況を平藤氏はこのように力説した。

平藤氏

「最先端の農業ICTを開発し、作物を売るだけでなく、うまくいった農業ICTが世界向けに通用していけば、技術そのものを売る展望が開けるはずです。農業ロボットベンチャーが世界中で増えているなか、古い農業機械を売るビジネスモデルが危うくなっていますから、期待したいところです。日本は農業ICTを扱うベンチャー企業に対する支援が薄く、ベンチャー企業は苦労していますが、例えば、農業情報設計社が開発した「AgriBus-NAVI」は無料のスマホ用ガイダンスアプリで既に数十万以上ダウンロードされ、使われています。頑張っていますから盛り立てていきたいと個人的に思います。」

イギリスのベンチャー企業が開発した10000ドルのDNAシーケンサーはナノテクを使ったもので、このような第3世代の開発技術が次々と世に出ているという。圧倒的に足りなかった形質データをゲノムを応用することによって、新しい品種づくりが容易になることも期待できる。

「農業サイエンスはこれまでデータが少なかったので、わからいことがたくさんありました。一年に1回しか実験できないですからね。知識で補おうとしても、小麦だけを数十年間にわたりデータを集めることは困難です。土壌水分、土壌温度、成長速度、微生物塔の時系列データをIoTによって解き明かすことができます。五感と経験だけに頼っていたことが、ビックデータとAIを活用することによって農業サイエンスは加速され、品種改良につながっていきます。」

JST CRESTで採用されたプロジェクト「フィールドセンシング時系列データを主体とした農業ビッグデータの構築と新知見の発見」はセンサネットワークや歩行型ロボット、ドローンなどを駆使して、環境データと植物データ、ゲノム、共生微生物のメタゲノムデータを網羅的に集め、時系列データに集積することによって、新知見を発見するものである。複数のドローンが自動的に画像を集めるなど、人為的では到底追い付かないデータ収集作業を完全無人運行で行うことができる。

また農業IoTの次のフェーズにあるのは、「コストダウン化」と平藤氏は指摘する。100万円規模でセンサー、ドローンなどをパッケージ化し、Twitterにデータ情報をツイートし、解析結果もツイートする取り組みなどが注目されている。TwitterBotとチャットしながら、AIアプリを作り、ディープラーニングが形成されていくというわけだ。なかでも、サイン関数の変化予測やサイクロイド曲線の変化予測などは難しく、半年以上かけて作業していたものがディープラーニングによって数分で済んでしまう。肥料価格の予測などもツイッターにツイートして、シェアをすれば、未来を網羅的に予測することができるという。フィンテック的な経営管理も見据えることができる。

平藤氏

最後に平藤氏は「無数にある植物の細胞構成物質のなかで、悪玉を除いて良玉だけを集めて、病気になりにくい品種改良を実現できるところまで既にきています。コンピューターの中でシミュレーションしながら学習させていくことによって、最適な微生物共生系が構築できるでしょう。またPCやスマホ上でモデルを自動生成する簡易アプリによって、パーソナルユース用メタコンピューディングサービスの構築も夢ではありません。」と、農業IoTの遠くない未来について語って締めた。

2016年11月4日開催 IoTイニシアティブ2016 パネルディスカッション動画 ※ 2016年11月時の肩書きとなります。

モデレータはIPA・SEC(ソフトウェア高信頼化センター)所長の松本隆明氏。パネリストには、農業・食品産業技術総合機構の平藤雅之氏、LIXILの高田巌氏、自治医科大の藍原雅一氏にR・ソーレ氏が加わり、それぞれの分野でのIoTの取組み状況や課題について「情報共有」を行った。 データのプライバシー問題や安全性、イノベーションの可能性について幅広いディスカッションが行われ、来場者からも「大変勉強になった」という声が相次いだ。

パネルディスカッション動画
動画再生時間:73分16秒

Optimizing the Potential of IoT/AI/Big data for Disruptive Innovation
動画再生時間:73分16秒

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