AIの生成能力を最大化する手法にて未学習・既存承認薬の設計に成功

医薬品開発や機能性材料の創出に生成AIが大変革をもたらしつつある。目的の分子を得るにはその特性を適切に評価し、生成AIにフィードバックする仕組みが重要だ。そこで過去の実験データ等を活用する、生成AI×予測AIによるデータ駆動型の分子設計は、高速・効率的な技術として注目されている。

だが従来、教師あり学習AIで有望だと予測された分子が実際には望ましくないケース、「報酬ハッキング」が頻発し、AIによる分子設計の実用化を妨げる一大要因となっていた。同時に改善したい特性が多い創薬で特に、その有用性は限定的だったという。

YCU生命情報科学研究室理研 制御分子設計研究チームの研究グループは、データ駆動型分子設計において報酬ハッキングを回避する、AIの予測信頼性を維持しつつ複数の特性を同時に最適化するフレームワーク"DyRAMO"を開発し無償公開した。信頼度の設定をベイズ最適化で効率化し、AIの生成能力を最大限に引き出す、新開発手法に対する有用性検証で、AIが学習していない既存の承認薬を設計することに成功した。

非小細胞肺がん等の治療における標的タンパク質の一つ、上皮成長因子受容体(EGFR)に結合する医薬品候補化合物の設計でEGFRに対する阻害活性、代謝安定性、膜透過性の同時最適化を試みた。分子生成AIとして同研究グループのChemTSv2を用いた。そして、信頼度が一定程度高い予測に基づいた3種類の特性が一緒に最適化された分子設計を達成した。

DyRAMOでは信頼度が比較的高い値に収まっている――。設計された分子の中には承認薬の一種「ゲフィチニブ」が含まれていた。上記結果はこれが有望な医薬品候補を設計する能力を有することを示唆している。DyRAMOは、多様な条件に適用可能であり、多岐にわたる分野での応用が期待されるという。研究グループの成果は「ネイチャーコミュニケーションズ」に掲載された。