医療資源の不均衡がもたらす健康格差、日本全国規模で明らかに

粒径2.5μm以下の微小粒子状物質(PM2.5)汚染が異なる年齢層の健康に与える影響について議論されてきた。それらの研究の多くはマクロレベルに留まり――、これまで高齢化社会に焦点を当てた研究はほぼ皆無だったという。

東京大学大学院工学系研究科の研究グループは、PM2.5汚染が高齢化地域における異なる医療部門に与える疾病影響を明らかにした。GEMM(全球暴露死亡モデル)および年齢調整済みのAVSL(統計生命価値)モデルを用いて、PM2.5暴露による健康損失を詳細に分析。全国17万件超の医療施設データを組み合わせて、PM2.5関連の5つの主要疾病への影響と、特定医療施設の空間的分布が不均衡であることを明確にした。

過疎化とそれに伴う医療資源の空洞化を背景に、PM2.5汚染が高齢化社会の健康面での不平等を一層悪化させている現状を指摘している。地方では高齢化の進行とともに、医療施設や専門医の減少が進んでいて、特定疾患の治療が困難な地域が増えている。そのような状況下で、PM2.5による健康影響が顕著になり、呼吸器系・心血管系疾患で医療需要の増大していることが示された。

個人や地域が直面する暴露リスクと医療資源の不均衡という二重の課題を解き明かした。自然環境や社会経済構造の変化にどう適応すべきか、そしてそのコストをいかに抑制するかといった将来の社会課題を浮き彫りにした。医療資源の最適な配分や地域間格差の緩和に向けた具体的なデータと示唆を政策立案者に提供する。日本国内にとどまらず、他国でも適応可能な実用的な手法と知見を提供する。

今回構築した分析フレームワークは、他の空気汚染問題や疾病研究にも応用可能であり、特に高齢化が進む社会において、健康影響の評価や医療資源の効率的な管理を目指す政策策定への貢献が期待されるという。研究成果は「Nature Sustainability」に掲載された。