量子コンピュータの実用化を早めるアーキテクチャに新技術を追加

量子力学の原理を応用して超高速演算を行う量子コンピュータは、解法により大別して2種類ある。そのうちの一つ、量子ゲート式のそれは創薬や暗号、金融などの分野で現行計算機(ノイマン型コンピュータ)よりも遙かに速く問題を解けると実現が待望されているが、計算中にエラーが発生しやすい。

エラー防止かつ実用的な計算を現実的な時間内で行うには、100万量子ビットが必要(出典:PNAS)で、その実現には長年月を要するとされていたという。大阪大学QIQB富士通は、共同開発中である高効率位相回転ゲート式量子計算仕様「STARアーキテクチャ」について、位相回転操作時の位相角の精度を向上させる技術と、量子ビットの効率的な操作手順を自動生成する技術とを開発した。

新技術により、量子コンピュータの計算規模を飛躍的に拡大させ、誤り耐性量子計算(FTQC)で現行機速度超越に必要とされた規模よりも1桁少ない6万量子ビットを用いて、現行機で約5年かかる物質のエネルギー推定計算を約10時間で実行可能になることを示し、量子コンピュータの早期実用化への道筋を確立した。6万量子ビットは、早ければ2030年頃に実現する規模だ。

上記成果は、同年頃に到来するだろうEarly-FTQC(未だFTQ計算が十分でない)時代において、量子コンピュータが現行計算機よりも速く問題を解決できる――量子優位性の実現方法を初めて示すものであり、いずれ電力インフラの送電ロス削減などにもつながる可能性のある、高温超伝導体開発のためのハバードモデルのより大規模な解析が可能になるなど、材料開発や創薬等さまざまな分野で、技術革新を加速させることが期待されるという。

両者は今後、「STARアーキテクチャ」を一層発展させつつ、世界に先駆けて実用的な量子コンピュータを実現することで、脱炭素化や新規材料の開発コスト削減などの社会課題解決への貢献を目指す考えだ。