企業の認知構造と財務パフォーマンスの関係性は放物線

経営課題は無数にある。そこでどの課題にどれほど注意を払うか、企業の認知の役割に焦点を当てる理論的視点「アテンション・ベースド・ビュー」では、認知構造が戦略的課題・資源の配分・行動の選択肢を生み出し、戦略的意思決定はその注意を払った問題の範囲に制限されるという。

経営戦略分野において、企業のアテンションは主に企業行動を説明するメカニズムとして用いられてきた。従来しかし、財務パフォーマンスに与える影響はほとんど解明されていなかった。アテンションとパフォーマンスの関係に着目した既存研究も、他社との差別化が競争優位を生み出すにも関わらず、アテンション構造の競合との相対的違いに関する観点が反映されていなかったという。

慶應義塾大学総合政策学部早稲田大学商学部一橋大学大学院ソーシャル・データサイエンス研究科の研究グループは、2004年~16年の東証上場986社の有価証券報告書を構造トピックモデル(機械学習の一種)で分析し、企業の「アテンションの独自性」を定量化。それと財務パフォーマンスの間に逆U字関係があることを明らかにした。

競合他社と全くの同質、あるは全くの独自な経営課題にアテンションを置くのではなく、適度に独自な経営課題にアテンションを置く際に最もパフォーマンスが高まる――。逆U字関係とは、アテンションの独自性がある程度までは財務パフォーマンスにプラスの影響を与えるものの、あるポイントを超えるとその正の影響が減少することを意味する。当該アテンションの独自性の影響は、成熟市場において顕著であることが示された。

今後、アテンションの独自性がどのように変化するのかについて探求していく予定である。いずれ統合報告書など企業の認知を表す文書データへ拡張し、アテンションの測定の精緻化にも取り組む余地があるという。研究成果は『Journal of Management Studies』に掲載された。