脂肪肝病理所見と肝がんリスク評価への新たな視点提供へ

脂肪性肝疾患(SLD:肝臓の5%以上に脂肪沈着を来した状態を総称した疾患群)は、肥満人口の増加に伴い、世界中で問題となっている。近年では人口の約3割が脂肪肝を有すると言われ、その中から肝がんの発症リスクの高い患者を特定することが重要な課題になっているという。


東大病院消化器内科検査部東大大学院消化器内科学の研究グループは、日本IBMの協力の下、脂肪肝肝生検標本のデジタル病理画像の深層学習によって、脂肪肝からの肝がん発症リスクを予測するAIモデルを構築した。

肝線維化は肝がん発症リスクの最も重要な指標とされているが、SLDにおいては、線維化の進展していない状態でも肝がんを発症するケースが頻繁に報告されている。そこで、非がん組織における細胞異型、核細胞質比の上昇、炎症細胞浸潤、大型脂肪滴の消失など、微細な病理所見を認識することにより、線維化が進行していない症例からの肝がん発症予測を可能とした。上記所見は暗黙知をXAIが明確化したものだ。

肝臓の病理画像からの肝がん発症リスクの高精度な予測ができる。同モデルの活用は、肝がん発症高リスク患者の早期発見を通じた適切なフォローアップを可能とし、将来的な肝がん予防と治療成績の向上への貢献が期待される。今回の研究成果は、慢性肝疾患の肝病理組織から発がん予測を行ったものであり、脂肪肝診療における更なる発展をもたらすブレイクスルーになるだけでなく、他疾患への応用も期待される。

AMED(105) 脂肪肝炎を背景とする代謝関連肝がん発生の病態解明に関する研究、代謝関連脂肪性肝疾患および肝がんの病態解明に関する研究厚生労働科学研究費補助金「肝がん・重度肝硬変の医療水準と患者のQOL向上等に資する研究」の支援を受けて行われた。脂肪肝病理所見と肝がんリスク評価に新たな視点を提供することが望める。研究成果は「Hepatology」電子版に掲載された。