実世界のデータに潜む性質を用いて最適化問題を高速・低コストで解く

ICT(情報通信技術)による能力拡張を目標とする。実世界の本質的な変化や違いを見極める熟練者や、AIの優れた視覚認知(視覚環世界)を伝承し、人々の視覚認知能力に革新的向上をもたらす研究に取り組んでいる。トップ選手動作への視覚認知向上による競技者の運動学習支援――

微小拍動への視覚認知向上による研修医の高難度/熟練医の最高難度手術の遂行支援、選手や演者の動作意図が明確に伝わる高臨場体験の創出など、本質的な変化や違いのみを高精度に検出し、誇張表現を介して明瞭に可視化する視覚認知向上システムの構築を目指している。同システムの具現化では、データ間の変化や違いを高精度に検出する基礎技術が必要になる。

そこで近ごろ最適輸送問題(1942年カントロビチが線形計画で定式化)が注目されている。同問題はしかし解くのに長い計算時間を要する、課題があったという。NTTは、入力データの巡回対称性や様々な最適化技術を用いて、最適輸送問題を非常に少数の変数で構成された別の最適化問題に帰着し、それを元の問題の代わりに解くことで計算コスト削減を実現した。

データ間の類似度や対応関係を求める最適輸送問題に対して、実世界のデータに潜む巡回対称性(回転や反転などの変換を適用してもその構造が変わらない性質)を利用することで、完全に同等な解を高速に求めることが可能な新しいアルゴリズムを提案し、その効果を理論的かつ実験的に世界で初めて示した。

これにより、熟練者と初心者間での身体動作の比較、定量化、そして可視化を通じて、人々の視覚認知能力の向上や伝承を支援する研究開発を推進していく。多様な人々の環世界の連結を志向するIOWNの技術基盤の一つとして、スポーツを始め多様な人々の能力拡張とその発揮に向けたサービス基盤の実現もめざしていくという。同社の今回の成果は先ごろ、AI分野における最高峰の国際会議AAAI-24にて発表された。