現行の半導体コンピュータでは、入力情報に対して出力情報が一意に決まる。このような計算処理の仕組みを「決定論的」演算と言い、出力を一意に決めず統計的な手法で決定する仕組みを「確率論的」演算と呼ぶ。昨今のAIや機械学習では確率的なアルゴリズムが様々な形で利用されている。
一方で、その演算自体は物理的には決定論的に動作する半導体回路で実行されている。ゆえにソフトとハードに不整合がある。IT(情報技術)の活用による社会変革が進展する中、上記不整合を解消して更なる高度化、消費エネルギーの大幅な低減を実現することが期待されている。AIで多く用いられる確率的なアルゴリズムを効率的に実行できるコンピュータの開発が喫緊の課題になっているという。
東北大学電気通信研究所(深見研究室)は、米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校と共同で、確率的なアルゴリズムの実行に適し、かつ製造容易性にも優れた近未来版の確率論的コンピュータを開発し、その動作を検証した。自然の熱で確率的に揺らぐスピン素子が生成する物理乱数により、疑似乱数生成半導体回路を駆動することで、優れた計算性能が得られることを確認した。
さらに、確率動作スピン素子を主体とする最終形態の確率論的コンピュータでは、現行の半導体回路で確率的な計算を行う場合と比べて4桁程度の小面積化と3桁程度の省エネ化がもたらされることを明らかにした。半導体回路と少数スピントロニクス(電気的性質×磁気的性質)素子の組み合わせで実現した、今回開発した近未来版の半導体・スピン融合確率論的コンピュータは、上記不整合及び半導体回路の課題を克服するものだ。
今後研究開発が進展し、計算性能と省エネ性に優れたスピントロニクス確率論的コンピュータの先陣に立って社会実装されていくことが期待されるという。共同研究チームの成果は、英国科学誌Nature Communicationsに掲載された。