次世代コンピュータ向け材料をDBと新たなAI学習モデルで見出す

ITを化学領域に応用するケモインフォマティクス、AI技術を用いて材料開発を効率化するマテリアルズインフォマティクス、データ駆動型化学への関心が高まっている。近年、AIと密度汎関数理論を用いての新たな蛍光材料の開発といった、データ駆動型研究の成功例が発表されているが――

複雑な構造を持つランタノイドイオンや金属錯体が主役の単分子磁石分野で、AIがどの程度有用性を発揮するかは不明であった。これまで結晶構造の特徴から磁気特性を予測するアプローチはとられてこなかった。単分子磁石は、超高密度メモリや量子コンピュータへの応用が期待される材料だが、分子設計の指針は確立されていないという。

東京理科大学理学部第二部化学科の研究グループは、金属錯体の結晶構造の3次元座標から構造的特徴を3D画像として学習する方法を考案し、結晶構造DB(データベース)から抽出した約20,000件のデータから、深層学習を用いて高い精度で単分子磁石特性を示すかどうかを予測するモデルを作成し、単分子磁石を見つけ出すことに成功した。

当該DBから金属サレン錯体を抽出し、深層学習AIを用いて、単分子磁石として機能する3D構造の特性を調べた。今回の研究では、過去10年間のサレン型単分子磁石に関する論文から作成したデータセットを用いた深層学習モデルを作成。同モデルを用いることで、分子構造のみから単分子磁石特性を示すかを約70%の精度で予測できた。

学習に不使用の2万件の結晶構造から、単分子磁石特性を予測して、最も単分子磁石らしいと見込まれた上位10個の金属錯体の多くはすでに同材料として報告されていることがわかった。同モデルは未知のデータから単分子磁石を発見できることが示された。これは複雑な構造を持つ単分子磁石分野でも、データ駆動型材料設計が有用であることを示唆する重要な成果だという。研究内容は国際学術誌「IUCrJ」に掲載された。