量子計算機時代に安心安全な通信を担保する、暗号プロトコル開発へ

量子力学の原理を応用したコンピュータ、量子計算機の開発競争が盛んである。世界でそれが実現した暁には、「Shorの(素因数分解)アルゴリズム」により、現在普及しているRSA暗号が解読されてしまう。ゆえに先進各国において近年、耐量子計算機暗号の研究が活発に行われている――

なかでも公開鍵暗号や電子署名は、米国NISTにて標準化が進められるなどして実用レベルに近づきつつある。が、その他の暗号プロトコルの耐量子安全性については理論的に未解明な部分が多くあり、量子計算機への強い安全性を満たすコミットメント(将棋の封じ手相当)を構成するには、達成したい安全性強度に応じて通信回数を増やすか、逆算が困難な一方向性関数よりも強い構成要素を用いるかの方法しか知られていなかったという。

NTTは、量子計算機に対する高い安全性(頑強性)と通信効率性(定数ラウンド性)を両立するコミットメントを、暗号理論における最も基本的な構成要素である一方向性関数のみを用いて世界で初めて構成した。量子計算機を用いる攻撃者に対して脆弱性の存在する可能性があったところで、コミットメントを設計し直すことにより、量子計算機に対する頑強性を証明することに成功した。

頑強性を持つコミットメントの応用例には複数ユーザーが自身のデータを秘匿したまま協力して計算をする秘密計算プロトコルがあり、今回の成果は量子計算機に対してより安全・効率的な秘密計算プロトコルを開発することにつながると期待される。今般導入した新たな安全性証明手法は、コミットメントに限らず、より広範な応用が見込める。

同手法を各種暗号プロトコルに適用することを通じ、耐量子安全性を証明することをめざす。研究を通じ、量子計算機時代の到来に向けた安心・安全な通信を提供する暗号プロトコルの開発に貢献するという。上記成果は理論計算機科学の最高峰国際会議「FOCS 2023」で発表される。