昨今、どのような遺伝子の変異がどのように細胞に影響を与えるのかを効率的に解析できるようになった。その結果、多くの遺伝子がミトコンドリアなどのオルガネラ(細胞内にある機能性小器官)構造を制御し、その制御の破綻が病気の原因となる可能性が示唆された。
しかし当該構造変化については多くのことが解明されていない。原因はナノメートルサイズの器官の構造解析がとても非効率であること。従来、細胞内に複雑に混在するさまざまな構造が映り込んだモノクロの電子顕微鏡(電顕)画像中から目的のオルガネラだけを塗り絵のように手作業でトレース(抽出)する必要があり、膨大な時間を要したという。
東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻の研究グループは、沖縄科学技術大学院大学イメージングセクションと共同で、深層学習と人間による対話型画像解析プラットフォーム(PHILOW)を開発し、ミトコンドリア内部立体構造の詳細な可視化に成功した。優性遺伝性視神経萎縮症の発症と非常に高い関連が知られるOPA1タンパク質がシート状/チューブ状内部膜(クリステ)の量比を制御することを同解析にて発見した。
電顕画像からの目的構造の抽出を圧倒的に正確かつ高速化した。ミトコンドリア全体のクリステ立体構造を、超人力精度で見える化し、定量的に解析することを可能にした。PHILOW(@GitHub)は、深層学習を用いた各種画像解析に応用され、多様な研究を促進するだろう。
ミトコンドリア融合因子OPA1の機能の新たな理解は、上記委縮症などにおけるミトコンドリアの変異と病態の関連を探る上で重要な一歩となる。同手法を用いることで、クリステ構造が異常になるパーキンソン病等の神経変性疾患やミトコンドリア病、さらにはミトコンドリア以外のオルガネラの関与疾患について、原因究明の加速が期待されるという。研究グループの成果は「PLOS BIOLOGY」に掲載された。