利害関係者のベクトルあわせで自動運航船の普及は10年超早められる

世界中を行き交う貨物は8割が船で運ばれている。人々の生活、経済、社会活動を支えている。船の事故は世界のサプライチェーンに強い衝撃を与え、海洋環境、乗客や船員の命にも影響する。昨今、船舶の増加や気象・海象の変化等、運航環境の複雑化に伴い――

海上安全の責務を担う船員の負荷も大きくなっていて、AI等による自動運航技術が注目されている。ヒューマンエラーが80%以上を占める事故の防止、作業負荷の軽減、省人化による船員不足の解消、船舶設計や運航の効率化による燃料消費削減といった効果が期待される。自動運航船の開発や実証実験は各国で行われているが、その技術が社会実装に至るまでには課題もある。

相互に影響しあう利害関係者が目標に向かい協力して、物事を進めていく必要があるという。東京大学大学院新領域創成科学研究科の研究グループは、海事産業を構成するステークホルダーの意思決定の組合せによって、自動運航船の実装・普及を10年以上早める可能性があることを明らかにした。

政策決定者や海運会社、造船所・メーカーなどの関係性・相互作用をモデル化した産業シミュレータを構築し、世界でも先駆的な事例だという検討をした。自動運航技術3種の成熟度、その組合せによる12タイプの船の経済性、安全性、それらに産業活動が及ぼす影響のモデルを作成して実験した。結果、多様な選択肢中でも、研究開発・実証事業への補助金と規制緩和の組合せにより、自動運航船の導入時期の早まることがわかったという。

同シミュレーションを政策決定者や企業の意思決定に活用することで、新技術の早期導入に向けた円滑な合意形成プロセスの実現が望めるという。同研究科に設置された「海事デジタルエンジニアリング」社会連携講座(22年8月発表記事)で発展させ、JST次世代研究者挑戦的研究プログラムの支援により実施された、研究の成果は『ScienceDirect』に掲載された。