"書く・描く"に限定しない。筆記具の価値をさらに広げ、高めていく、新たな提供価値を検討する中で、ユーザーが日常的な筆記行為を通じて自分の"集中状態を把握"できれば、自身に合った学習や作業を実現できるのではないか――
教育分野における授業の最適化、作業分野における効率向上やストレス軽減にもつながるだろう。現在、それには脳波計等を頭部に装着する必要があり、その行為自体が煩雑、かつ集中力を下げる要因となるなど、データ取得において多くの課題を抱えているという。三菱鉛筆は、東京大学大学院薬学系研究科の池谷裕二教授、ストーリアとの共同研究で、筆記具の動きと脳波を記録し、筆記具の動きから脳波を予測する実証実験を実施した。
筆記具に、加速度測定用のアタッチメント型IoT機器(ストーリアの試作品「Penbe」)を装着し、筆記動作をセンシング可能とした。一方で、脳波計を被験者に取り付け、集中力やタスクパフォーマンスとの関連が知られている前頭葉のガンマ波成分を計測。筆記動作(加速度)とガンマ波を、「長短期記憶(LSTM)ネットワーク手法」を用いて時系列的に分析した。
アラビア語学習経験のない被験者を対象に、60分間アラビア語の書き写しを行い、その後10分間ずつ絵画と数理クイズのタスクを課した。アラビア語の書き写しをする60分間においては、集中を阻害するために、外部から各種妨害(動画視聴やフリートーク)を行った。結果、加速度データから集中力の測れることが判明した。LSTM手法にて、筆記具の加速度データからデルタ波を予測できることが示されたという。
脳波を直接測定せずとも、日常的に使用する筆記具から脳内の状態を予測できることを意味していて、教育や作業など多彩な場面での応用が考えられる。今回の研究成果、『筆記具の加速度センサーによる大脳皮質ガンマ波の予測』論文は、2023年度人工知能学会全国大会に採択された。