首の骨の中で脊髄が圧迫されて起こる。頚髄症は、麻痺や疼痛、歩行障害などを引き起こす進行性の疾患だ。悪化すると日常生活に差し障るが、初期には自覚症状が乏しく、また、診察に専門知識を要するため――
診断までに時間が経過し、病気が悪化してしまうことが多い。そのうえ、重症化した頚髄症に手術を行っても、予後が良くない。そこで、適切な時期に適切な介入を施すために、頚髄症の早期発見を目的とした簡便で精度の高いスクリーニング手法を確立し、それを実行することが望まれているという。
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 運動器機能形態学講座の研究グループは、慶應義塾大学理工学部情報工学科のグループとの共同研究で、スマートフォンを使用した頚髄症の疾患スクリーニングおよび重症度推定の可能性を示した。頚髄症患者に特徴的な指の動きであるミエロパチーハンドに着目し、10秒テスト(手指の開閉を10秒間に可能な限り速く繰り返す検査)を解析した。
指の細かな動きにこそ疾患特有の動きが含まれているとして、一般的なスマホで撮影・録画した10秒テスト動画からMediaPipe Handsを用いて、手指の関節の位置を推定することで、同テスト中の特徴的な指の動きを取得した。疾患の有無の判別には、精度の一層向上に資する機械学習を採用。さらに質問票を用いて疾患の重症度に関する情報を収集し、その点数予測も行った。
患者22名、無病被験者17名にて、感度90.9%、特異度88.2%、AUC0.93といった非常に良好な結果、重症度予測に関しても相関係数0.67-0.79の良い結果を得た。過去に特殊な機器を用いて行った際よりも高精度で判別できた。患者自身によるスクリーニングも可能にするだろうという。JSPS科研費、AIP加速PRISM研究、JSTさきがけの支援を受けた共同研究の成果は、国際科学誌Digital Healthに掲載された。