大気中のCO2を天然岩石に固定化、農地・森林・近海での好循環へ

カーボンニュートラルの達成を多くの国が宣言している。そのためには、再エネの主力化に加え、多様な仕組みや場面で排出される人為起源CO2の大気への放散を回避またはオフセットする必要がある。気候安定化のためには大気中のCO2を回収・固定化する技術も求められる。

そこでNETs(経産省PDF)が注目されている。そのひとつ風化促進(ERW)は、玄武岩などの苦鉄質岩を粉砕・微粉化し、耕作地等に散布し、風化の過程でCO2を吸収するものだが、その適用によって新たに放出されるCO2や、自然循環も含む複雑な炭素収支は定量化が不十分で、日本で実施した場合の地層や岩石ごとに異なる総固定量や実際の正味固定量は不明だったという。

早稲田大学中垣隆雄教授)、三菱重工エンジニアリング北海道大学京都府立大学のグループによる提案が、NEDOムーンショット型開発研究事業の「岩石と場の特性を活用した風化促進技術"A-ERW"の開発」として採択された。同グループは地質調査データが豊富な北海道をモデル地域として選定。各地で得られるA-ERWに適した岩石を効率的に粉砕し、その土地に適した方法で風化促進させる。

A-ERWは大気中のCO2除去と同時に、地域に資源循環・コベネフィットをもたらす。耕作地に散布すれば農作物の収量増、養分供給、土壌改善および有機炭素の貯留量増加につながる。休廃止鉱山や森林傾斜地への散布では、中和剤用途の石灰から脱却でCO2の発生を抑え、森林傾斜地の地滑り防止によって結果的に炭素固定量を増加させる。

散布岩石に含まれるCa、Mg、K等は河川を通じて近海のアルカリ化に寄与――海水中のCO2保持力向上が期待される。蛇紋岩など開放地への散布が不適当な岩石は、工業的に大気中のCO2を高速に鉱物化させる。シンプルかつ確度の高い炭素会計LCAを国内外に示し、CO2削減クレジットによる早期社会実装を目指すという。