実験ノートを電子化、AIシステムで自動解析する

科学研究の記録は実験ノート、学術論文、特許などで蓄積されてきた。公知文献は失敗を含む実験時の細かな条件等が割愛されていて、成果因子の把握ができない。紙の実験ノートはそれを読み解き、解析用データベースを構築するのに大きな労力を要する。

そこでそれらの情報をAI(人工知能)にて統合管理することが検討されている。今日、実験者が日常的に行うアナログで複雑な研究を正確にデジタル記録し、データ科学に展開する手段の確立が肝要だという。早稲田大学理工学術院の研究グループは、NIMSと協力し、日々の化学・材料実験の様子を電子実験ノートとして記録し、実験操作と結果の関連を自動解析するAIシステムを構築した。

同システムでの解析を通して、室温で液体に近い伝導度を示す高分子固体電解質の最適な製法や、高性能の鍵となるメカニズムを明らかにした。電子実験ノートシステムは様々な材料研究へ展開可能で、実験研究のDXを促進する足掛かりになるという。研究グループは今回の研究に関わる一連の実験記録を、失敗データや計測情報も含めてweb公開した。

世界中の研究者やAIが生実験データにアクセスできるようになり、データ科学を介したオープンサイエンスの流れが強まることを期待している。同システムを用いて新たに発見したイオン伝導体は、伝導度・安定性・再現性等、さらに解明しなければならない点も残っている。データ科学を活用した研究の継続により、いずれ車載用全固体二次電池などでの利用が望める。

現在、化学・材料実験の記録に特化した管理ツールの構築にも取り組んでいる。多種多様な実験記録から効率的に有用な知見を抽出するノウハウについては一層の検討が必要で、データ科学の専門家とも協力しながら課題解決に向けた研究を進めているという。同グループによるこの度の成果は8月17日、『npj Computational Materials』に掲載された。