食道がんの全ゲノム・免疫情報を機械学習、術前化学療法の効果予測へ

食道がんは5年相対生存率が約40%の難治性癌だ。病理学的には、扁平上皮がんと腺がんに分類される。日本を含むアジアでは、ほとんどが扁平上皮がんで、その最大のリスク要因は喫煙や飲酒だ。

がん情報サービス「食道」頁によると年間約2.5万人が発症し、約1.1万人が死亡している。日本における食道扁平上皮がんの標準治療は、複数の薬剤を組合せた化学療法の後に切除手術を行う「術前化学療法+手術」。食道がんは極めて進行が早く、広範囲に転移することが多い。術前から潜んでいるとされる全身の微小転移をどれだけ制御できたかに予後が大きく左右される。しかし化学療法の効果は40~60%で、治療開始前に予測できない。

これまで予測が試みられてきたが、その精度は高くなく、再現性も乏しいため、医療実装はなされていないという。理研がんゲノム研究チーム近大・外科学教室上部消化管部門東大病院・免疫細胞治療学講座の共同研究グループは、食道がんの全ゲノムおよびRNA発現データから腫瘍ゲノムのコピー数異常と腫瘍内の免疫動態を解析し、AI・機械学習を用いて、術前化学療法の効果を予測することに成功した。

化学療法開始前に採取した141例の食道がん組織の全ゲノム・RNAシークエンス解析を行い、調べた結果、がん細胞のコピー数異常や腫瘍内の免疫細胞の動態が化学療法の効果と関連することが分った。喫煙などの臨床情報と免疫・ゲノム情報を統合し、機械学習によって化学療法の効果を予測するアルゴリズムを開発し、その高い診断精度を確認した。

マウス腫瘍モデルを用いて、化学療法の効果と最も強い関連が認められた免疫細胞の好中球を除去すると、化学療法の効果が向上することも証明した。事前にがん化学療法の効果を予測するがん精密医療や、新しいがん免疫療法の開発に貢献するだろう。共同研究グループの成果は『Cell Reports Medicine』に掲載された。