海上保安DX、複雑な航路での衝突リスクをAIにて高精度予測

日本の輸出入の99%以上は海上輸送が担っている。昨今、コロナ禍により人の動きが大幅に制限され、物流の重要性が一層高まっている。一方、世界では重大な船舶事故が相次ぎ、直接的な損害だけでなく、船舶不稼働による機会損失や物流停滞による間接的な損害が生じている。

人命や環境にも大きな影響を及ぼす、海上交通の安全性確保が大事となっている。事故の多くはヒューマンエラーに因る。特に港付近や湾内などの輻輳海域では、各船舶の動静を把握し、船舶に対して危険回避のための情報提供などを行う運用管制官を支援する技術が求められている。既存の衝突リスク算出手法の大半は、航行ルートを直線としているため、海上交通安全法等で定められた航路の屈曲部で不要なアラートが多発してしまう。

ゆえに危険回避のための情報提供をどの船舶にいつ行うか、判断は運用管制官の経験や技量に依存――。海の安全と管制業務の負荷に課題が生じているという。

富士通は、本邦初となる、湾内などの複雑な航路を含む海域における船舶同士の衝突リスクを高精度に予測するAI技術を確立した。昨年11月~今年9月海上保安庁とともに、海上交通管制業務へ同技術を適用した実証実験を行い、その有効性を確認した。従来の衝突リスク予測に新たなアルゴリズムを加えることにより、航路に沿った進路変更などを危険な操舵と検知することなく、船舶の衝突リスクが高いアラートのみを検知可能とする。

東京湾海上交通センターにおいて過剰なアラートを約90%抑制した。これにより、衝突回避のための迅速な初動対応を支援し、管制業務の負荷軽減、海上交通の安全性向上に貢献するという。同社は、海上交通管制さらには船上の見張り業務向けに新たに強化したAI技術「Zinrai」を適用し、来年3月までに安全航行支援サービスの提供開始を目指す。サービス提供を通じて、レジリエントな海上交通システムの構築を支援していく構えだ。