水産業DX、真珠養殖にIoTを活用して明るい未来を拓く

気候変動の影響が海域でも顕在化しつつある。熊野灘沿岸では、過去約100年間で高水温化が進行していることが明らかになってきた。そのうえ近年、黒潮大蛇行や気象等の影響も加わり、顕著な高水温、餌不足といった漁場環境下において、アコヤ貝のへい死が発生している。

三重県の真珠養殖業の現場では、それら環境変動に様々な要因が複合的に影響して、稚貝を中心にへい死が発生(20年度へい死率44%)しているため、被害軽減に向けた取り組みが急務である――ゆえに同県水産研究所は昨年末に「気候変動に対応した新たな真珠適正養殖管理マニュアル」(PDF)を公開――以前から、アコヤ貝に被害をもたらす恐れのある有害な赤潮や貧酸素の影響についても、効果的な対策が求められているという。

三重県水産研究所と、NTTアグリテクノロジーミキモトは今月15日、アコヤ貝のへい死の軽減を図り、真珠養殖業の活性化等を推進するため、英虞湾(あごわん)において、IoTを活用した新たなプロジェクトを開始した。3者は来年3月末までこれを実施し、そこで得られた結果をもとに取り組みの範囲を広げて、真珠養殖業の生産性向上および活性化をめざす。

新プロジェクトでは、海洋環境の各種センサー(海洋IoTセンサー)と、貝リンガル(ホール素子センサーによる貝の開閉運動を可視化する装置)を活用し、海洋環境と貝の開閉運動のデータ蓄積及びそれらの相関関係の解析を行う。異常検知時のアラート通知によるアコヤ貝のへい死被害の回避等の検証も行う。通信環境は、英虞湾全体の真珠養殖場への拡大を見据え、LPWA(低消費電力・広域無線通信技術)等にて構築する。

IoTシステムの活用により、高水温時や赤潮・貧酸素水塊の発生など、アコヤ貝の成育に脅威となる環境の変化や貝の生理状態の異常を迅速にとらえて、適切な養殖管理を実施することで、へい死被害等の軽減を図ることが期待されるという。