九州大学マス・フォア・インダストリ研究所、名古屋大学大学院理学研究科、米国インディアナ大学公衆衛生大学院の共同研究グループは、COVID-19の「臨床試験シミュレータ」を新たに開発した。これにより、抗ウイルス薬剤治療の臨床試験における解決すべき問題を特定し、標準治療の確立を大幅に加速させることが期待されるという。
同グループは、COVID-19患者の臨床データを収集し、数理モデルを用いて分析した。結果、患者間でウイルス動態、特にウイルスの減衰速度に大きな差があることを見出した。このようなウイルス動態の違いは、観察研究においては、抗ウイルス薬剤の治療効果推定にバイアスを与える「交絡因子」となることが考えられる。交絡因子の影響を受けない治療効果の評価手法「ランダム化比較試験」があるとして――
数理モデルを用いて同試験を再現するシミュレータを開発。その結果、発症時期を不問とした場合、1万人超の被験者参加が必要なことがわかった。これは、特に感染者数の限られる日本では非現実的な必要被験者数だという。一方で、発症後間もない患者のみを試験に参加させることで必要被験者数を500人程度に抑えられることを世界で初めて示した。
今回の研究で用いたウイルス感染動態に基づく臨床試験のシミュレータは医師主導臨床試験(jRCT2071200023)の設計に使われ、異例の早さで既に現在、国内で実施されている。数理科学と生命医科学の異分野融合により臨床試験設計を補助することで、その他の感染症や疾患における標準治療法の早期確立を目指すという。研究グループの成果は、国際学術雑誌「PLOS Medicine」に掲載された。