顕微授精の成功率アップに向けて、クラウドAIを活用する

不妊治療において、精子数の少ない患者には主に顕微授精が行われる。限られた時間の中で有望な精子を見つけ出す高い細胞識別能力が要求される、この専門的な技術を有する胚培養士の負担は極めて高く、成功率を上げるためにも、精子の探索・評価を支援する技術が求められているという。

横浜国立大学 工学研究院および理工学部と、横浜市立大学 附属市民総合医療センター生殖医療センターの共同研究グループは、判別が難しい精子とそれ以外の細胞を見分けるAI(適応的閾値ブースティング法、カスケード型グレーディング法)につづき今回、精子評価作業をAIで支援するシステムを開発した。それをクラウドで本格稼働し、大規模な精子データの収集とディープラーニングによる学習を実現した。

国内各所の胚培養士に協力してもらい、様々な視点で行われる精子評価の分布を高精度に推定する手法を新開発。これにより、新たな精子選別において、多数の胚培養士の5段階評価を予測・提示できるようになった。説明用のファジィ推論のしくみも導入される。クラウドのポータルサイト経由で、採取した精子データの登録・評価を行う。

データベースの精子動画について、ディープラーニングで特徴を抽出し、胚培養士の集合知(分布)を推定する。分布精度の平均二乗誤差(MSE)は学習データに対し0.00035(平均絶対値誤差MAE1.43%)、検証データに対して0.025(同11.08%)となり、高い精度で分布推定ができることを確認した。

このシステムの実用化により、生殖補助医療分野――精子の選別・探索、男性不妊症検査が高度化し、不妊治療における受精率の向上、患者の費用負担の軽減、胚培養士の負担軽減や技術伝承に大きく貢献するという。研究グループの成果は、第18回コンピューテーショナル・インテリジェンス研究会第66回日本生殖医学会第109回日本泌尿器科学会で発表予定とのことだ。