"早押しクイズ"での脳活動を顔認証・サイバー防衛AIに応用

AIは、一般的に、あらかじめ設定した量のデータをすべて取得してから分析し、結果を出す。例えば顔認証を活用した入退場ゲートでは、複数フレームの画像を連続して撮影しデータを蓄積してから、それらを総合的に判断することで個人を認証する。

一方、人間は全情報が揃っていなくても適当な判断ができる。必要な情報が集まり次第直ちに解答する「早押しクイズ」のような意思決定を行う。脳のしくみを真似れば――所望の信頼度が得られたタイミングでデータ収集を打ち切り判断することで、認証や検知・分析を高速化できる。所定量のデータすべてを取得する場合は、より高精度な判断が可能となる。

1940年代に提案された逐次確率比検定(SPRT:論文)は、製造分野の品質管理で使われてきたが、必要となるデータなどの前提条件が厳しく、幅広い領域への適用が困難であった。近年、意思決定時における大脳頭頂葉の神経細胞がこの手法に近い計算をしていることが明らかになった。そこで最新の脳神経科学と自社の機械学習の知見を融合することにより、厳しい前提条件を乗り越える革新的なアルゴリズムを考案したという。

NECは、上記検定の幅広い社会実装を可能にする技術「SPRT-TANDEM」を開発した。統計的判断の尺度を高速かつ頑強に推定する新たな損失関数と、損失関数を特定するディープニューラルネットワーク構造を、脳神経科学などの学際的知見に基づき設計し、アルゴリズムとした。同計算手法は従来手法との比較で、目標精度が同じならば最大20倍の速度で判断を可能にする。

成果を国際会議「ICLR 2021」にて発表した。同社は、今回の技術について、世界No.1の認証精度を有する顔認証AIエンジン「NeoFace」 への搭載を目指している。さらに、不正通信などサイバー攻撃の検知・分析の速度・精度の向上をはじめ、時系列データを活用する領域全般への適用を検討するという。