360度VR、室内投影型が認知活動に適している

IT(情報技術)&デジタル技術により臨場感を生みだすVR(仮想現実)が教育・医療・産業界にも広がりつつある。現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により在宅時間が長くなる中、バーチャル空間を活用するためのVR機器が一層注目されているという。

東京都市大学メディア情報学部情報システム学科の研究チームは、工学院大学情報学部コンピュータ科学科および香川大学工学部の協力を得て、360度のバーチャル空間を提示する2種類の「没入型ディスプレイ」についてユーザーの認知活動(思考)に及ぼす影響を多面的に評価し、認知活動の促進には室内投影型(CAVE)の方が頭部装着型(HMD)よりも効果的であることを定かにした。

実験では、ゴーグル型のヘッドマウントディスプレイと、四方の壁にパノラマ映像を投影するプロジェクション型ディスプレイを使って、学生15名が複数の360度動画を視聴した。認知活動の過程を測定するために、脳波・心拍・鼻部皮膚温度等の生理的指標および360度動画の左右や後方をどれくらい見回すかといった行動的指標を用いた。認知活動の性能を測定するために、視聴後に動画の内容をどれだけ覚えているかの記憶テストも行った。

結果、CAVEで視聴すると、視聴中はユーザーに適度な認知負荷がかかり(交感神経活動を反映するとされる鼻部皮膚温度が低下し)かつ記憶テストの点数が高く、HMDで視聴すると、視聴中ユーザーは動画の後方までよく見回すものの、記憶テストの点数は低いことが明らかになったという。実験の解説が公式YouTubeチャネルにある。

教育や学習の場面にはCAVEを、エンターテインメントやヒーリングの場面にはHMDの活用を推奨する。用途に応じた没入型ディスプレイの活用が促進されることを期待しているという。研究チームの成果は情報処理学会論文誌(61巻11号、2020年11月)に掲載された。