水素社会に向けて、全高分子形リチャージャブル燃料電池を世界初開発

クリーンで高効率なエネルギー変換デバイスの開発が世界中で進められている。近年、固体高分子形燃料電池(PEFC)は、自動車駆動用電源や家庭用電源などに実用化されていて、他の用途にも普及することが期待されている。

現在、各種電源回路で主流のリチウムイオン二次電池は、その性能と耐久性が日々向上しているものの、リチウム資源が限られていることに加えて、潜在的には発火の危険性をぬぐいきれないといった課題がある。一方、PEFCは、他の燃料電池と比較して、運転温度が低く起動停止が容易、全固体ゆえに安全性が高く保守も容易、出力密度が高くコンパクトかつ軽量などの特徴がある。

厚さ10-30μm程度のプロトン導電性高分子膜(PEM)を電解質として用いるPEFCで使われる、水素貯蔵供給システムとして、自動車用途には高圧水素タンク、家庭用には都市ガスを水蒸気改質――メタンと水蒸気を高温で反応させて水素を製造する装置が用いられているが、それぞれ可搬・携帯性、安全性、エネルギーコストに課題があり、PEFCの応用分野を広げる目的で様々な水素貯蔵材料が検討されてきたという。

山梨大学クリーンエネルギー研究センター早稲田大学理工学術院の研究グループは、水素を可逆的に吸脱着可能なプラスチックシート(16年発表ケトンポリマー応用)をセルの内側に組み込んだ「全高分子形リチャージャブル燃料電池」を世界で初めて開発した。今回の研究により、水素タンクや改質反応装置が不要で、安全かつ繰り返し充放電して持ち運び可能なPEFCを実現した。

一定電流密度(1mA/cm2)にて最長8分間程度の発電が可能で、計50回充放電が繰り返せる。構成材料の高性能化や最適化を図り、耐久性などを改善することで、携帯電話や小型電子デバイスなどモバイル機器用の電源として応用できるだろうという。研究グループの成果はNature系列誌オンライン版に掲載された。