製鉄所の現場作業の一部は、高温溶融物の取り扱いをはじめとしてリスクが高い。熟練が必要であるためOJTに頼らざるを得ず、若手社員に技能を安全かつ着実に伝承するうえでの課題を抱えていたという。JFEスチールは、最新の複合現実(MR)技術を活用した教育訓練シミュレータ――熟練現場作業について実操業と同等の訓練を可能とする、国内鉄鋼業界初のシステムを西日本製鉄所へ導入した。
現実空間と仮想空間を混合し、双方がリアルタイムに共存する新たな空間を構築する。MR技術では、コンピュータ上に忠実に再現されたバーチャルな工場と、現実世界の人の動きを融合した訓練環境を構築でき、定常的な操業状態、非定常な事象を再現することが可能となる。訓練では3D仮想空間の中の設備を移動したり、一部実際のスイッチを操作したりできるだけでなく、設備の稼働状況も現実のように体験することができるという。
同社は、連続鋳造機での溶鋼鋳込み量調整作業について訓練シミュレータを開発し、既に運用を開始。通常の操業変化だけではなく、鋳込み量を調整するノズルの閉塞現象をはじめとする異常事態のシナリオも準備していて、予期せぬ操業変化や異常事態に対する訓練を、現実同様の作業環境で行えるようにしている。シナリオ追加は容易であり、必要に応じて様々な異常事態に対する訓練を実施できる。
OJTの前に同システムで訓練すると、従来よりも操業リスクを低減でき、異常事態での判断や処置を迅速にすることも可能だという。「JDXC™」開設済みの同社は、上記訓練シミュレータを全製鉄所・製造所に展開していくことで、若手社員への熟練技能の伝承をさらに推進していく構えだ。