小さな電波送信装置を実現する、高出力・広帯域パワーアンプあらわる

生活空間には無数の電磁波が飛び交っている。宇宙から降り注ぐ光などではなく、人工的につくりだす、赤外線以上の波長を持つそれを特に「電波」という。テレビやラジオ放送、移動体通信、気象レーダーやリモートセンシングなど、用途に応じて幅広い周波数帯の電波が利用されている。

様々な周波数帯の電波を送信するためには、用途ごとの規格に対応した周波数帯をカバーする電波送信装置を設置し、それぞれに異なる電力増幅器(パワーアンプ)を用意する必要がある。そのため電波送信装置が大型化する現在、1台で複数の周波数帯をカバーでき、共有化できる高出力なパワーアンプの開発が求められている。パワーアンプは、送信信号を所要出力まで高めることにより、電波の到達距離を伸ばす働きをする。

電波送信装置を構成する部品として、高出力かつ広い周波数帯をカバーするのが困難なパワーアンプは、同装置の共用化を阻む要因になっていたという。富士通研究所は、1台で数百MHz~数GHzの幅広い周波数帯で信号を出力できるパワーアンプの設計技術を発明。電力合成器にインピーダンス(交流回路における抵抗値)変換機能を持たせ、同器とトランジスタとのインピーダンス差分を小さくした広帯域パワーアンプを開発した。

薄い回路基板の下部の筐体を空洞化し、その基板の表面と裏面に幅広い信号配線を形成した、3次元配線構造の結合線路を電力合成器に世界で初めて適用した。この設計手法に基づき、これまでの増幅器よりも2倍の周波数広帯域化を、高出力特性を損ねることなく実現した。今回試作した窒化ガリウム(GaN)パワーアンプでは、広帯域に電力合成ができていることを実証した。

各種レーダーやセンシングなどで使用されている幅広い周波数を1台でカバーする、多目的電力送信装置への適用が期待でき、送信機の小型化に貢献するという。技術の詳細は、国際シンポジウム「IMS2020」にて発表される。