"サッカード抑制"現象から、脳の情報処理機構について新たな事実が

急速な眼球運動が生じた際、網膜への刺激が遮断される現象を「サッカード抑制」という。フランス語由来の"Saccade"とは馬の手綱をぐいっと引っ張ることで、読書中に文字を追うため視線を急に変えて止めるような目の動きであり、人間のサッカード眼球運動は1秒間に数回程度生じる。

私たちは視線移動に伴う網膜像変化を感じることなく、静止した世界を見ている。これは視野安定の問題と言われ、視覚科学の長年の謎の一つである。視線を移動するためには脳から眼球運動の指令を出す必要があり、その指令信号を使えば網膜像がどのくらい変化するかわかるはず。それを考慮に入れて網膜像を処理すれば、実際の動きと視線の動きが区別できるとの仮説を立てることができる。

実際の眼球運動はしかしそれほど正確ではなく、眼球運動の指令信号と一致しない。そのずれをどう処理するかが視野安定の謎に迫る鍵の一つになる。視線が移動する前と後で、見ているものが動いたとき、その動きが小さい場合にそれに気づかない現象(位置変化に対するサッカード抑制。例:鏡の中の自分の目の動きは知覚できないが、スマホで撮った映像は視線の動きと同期している)の問題として研究が続けられているという。

東北大学電気通信研究所の塩入諭教授の研究グループは、視野安定をもたらす脳の情報処理機構について新たな事実を発見した。見やすい視覚刺激ほど動きが見にくいという逆説的な結果を見出し、視野安定のための脳の情報処理の重要な特徴を明らかにした(参考動画:YouTube)。

「位置変化に対するサッカード抑制」現象を調べることにより、上述の謎に迫ることができる。はっきり見える刺激に対して、より大きなサッカード抑制が生じるとの発見は、視野安定のために脳がおこなう情報処理の理解を大きく進めることになるという。同研究グループの論文は、英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。