伸張反射の応答は、画一的に生成されるわけではなく、運動中に刻一刻変化する身体状態に合わせ調整されることが近年の各種研究で明らかになってきた。その調整のために脳内でおこなわれる情報処理はしかし、詳細が不明である。たとえば、伸張反射の調整が体性感覚情報(触覚や深部感覚を含む感覚機能)のみに基づくのか、あるいは視覚情報も統合した身体表象を利用して行われているのか、未解明だったという。
NTTは今月1日、伸張反射が視覚による身体情報に依存して調整されることを、NTTコミュニケーション科学基礎研究所が世界に先駆け発見したと発表。同研究所は、運動中の伸張反射応答を調べる実験を行い、身体状態を表す視覚情報に操作を加えることで反射応答が小さくなることと、視覚情報の提示時間に応じて変化する反射応答と運動到達位置のばらつきが逆相関することを見出した。
視覚目標への到達運動中の伸張反射が、①体運動の視覚フィードバックと実際の運動の不一致、②身体運動の視覚フィードバックの消去という条件下で通常時より小さくなった結果から、伸張反射の調整には体性感覚情報だけでなく、「視覚情報も統合した身体表象」が利用されていると考えられる。さらに、上記ばらつきの逆相関は、運動中の身体状態推定の不確実度合いによって伸張反射が調整されていることを示唆しているという。
身体動作のより深い理解につながっていくことが期待される。今回の研究は"科研費"の助成による「潜在的運動における学習適応メカニズムの解明と計算モデル構築」の一環であり、成果は国際ジャーナル「eLife」に掲載された。