暗号×機械学習、プライバシー保護と不正送金阻止を金融機関で

警察庁によると、日本国内における令和元年中の特殊詐欺の認知件数は約1万7千件。その被害総額は平成22年から急増し、26年の約570億円をピークに減少に転じたものの、いまだ300億円超(令和元年)であり、深刻な社会問題となっている。

警察庁Webサイトで示されている手口の他にも、テクノロジーの進化や経済のグローバル化を背景にしたマネー・ローンダリング、不正送金などの金融犯罪が複雑化・巧妙化している。現在、多くの金融機関は、各々保有する金融取引データに対し、ルールベースのモニタリングツールを用いて不正取引を検出している。担当者の経験等への依存やコストの課題があるため、人工知能(AI)による自動検知システムの導入検討も進めている。

AIシステムはしかし、単独の金融機関では十分な量の学習データを用意することが難しく、個人情報を含む金融取引データを外に持ち出せないため複数の金融機関で協力して活かすこともできない。適当に学習させられないAIシステムは、普及が進んでいなかったという。NICT神戸大学及びエルテスは、プライバシー保護深層学習を活用した不正送金検知の実証実験において、金融機関5行との連携を開始した。

3者は昨年2月来、暗号技術と機械学習技術の融合により、データの機密性を保ったまま機械学習を可能とするNICT独自技術「DeepProtect」を応用し、パーソナルデータの保護を図りつつ、複数の金融機関が協調して不正送金等を自動検知できるシステムの実現を目指し、千葉銀行とともに検知精度の向上に取り組んできた。実証実験に今回、三菱UFJ銀行中国銀行三井住友信託銀行伊予銀行が参加する。

プライバシー保護深層学習技術により金融取引データを安全に解析する。研究の一部はJST・CREST「イノベーション創発に資する人工知能基盤技術の創出と統合化」における『PPDMプロジェクト』によるものだ。