多層階への架設が容易なしくみで建物をまとめて制震する

建築物を補強する筋交いは英語で"brace"という。それは地震などによる揺れを抑制・低減する部材であり、鉄骨造りの建物においては鋼管等を用いた「座屈拘束ブレース」が、たとえば屋内駐車場でみられる。

3月31日、三井住友建設は、広島大学大学院工学研究科建築学専攻の田川浩教授と共同で、地震発生時における多層階での揺れを一括して制御する「揺動制震システム」の実用化に目処を付けた。同システム(特許出願中)は、制振ダンパーが有する減衰性能を新たな配置方法で効果的に発揮させるもので、同社技術研究所にて実大規模の加振実験を行い、優れた制振性能が確認されたという。

建物の多層階に渡って架設するタイロッド部、地震時の揺れを吸収する制振ダンパー部、制振ダンパーを安定して動作させる揺動機構部より構成されている。今回のしくみは、上記部材を用いた従来の制振構造に比べ、設置個所を削減ができ、制振性能を向上させることが可能である。揺動機構部により制振ダンパーの復元力を安定させるとともに大きな変形を生じさせるため、制振ダンパー本来の性能を最大限に引き出す。

タイロッド部を複数層に掛け渡すことにより、各層の変形を一箇所に集中させるため、制振ダンパーを有効活用できる。揺動機構部とタイロッド部の運動を活用することにより、細いタイロッド部材で多層階への架設が容易にできる。各種制振ダンパーとの組み合せが可能であり、目的に応じた制振ダンパーを選択できるといった特長を備えているという。

同社は、サスティナブルな技術開発など国連SDGsに対応するための取り組みを推進していて、今後は、倉庫、工場、生産施設など様々な構造物の新築・改築時に同システムの積極的な提案を行い、大地震時における構造物の破壊や倒壊を防ぐだけでなく、構造物内の資産を守るとともに、地震後の継続使用が可能なレジリエントな構造物の実現に取り組んでいく構えだ。