みやげ物店にある木彫りの熊もそれをくわえている。サケは馴染み深い食材であり、その独特な回遊生態から数多くの研究者を魅了してきた。過去に大規模な漁獲調査も行われている。
日本のサケは、春に孵化すると早々と海に下り、オホーツク海を目指したのちベーリング海に向かって北上し、ベーリング海とアラスカ湾を往来しながら数年かけて成長して、生まれた河川へと帰って来る。経路のなかで、河川から海/海から河川への回遊については、数多の研究がなされてきたものの、一生の大半を過ごす海での回遊ついての調査は、多大な予算・技術・労力が要るためにほとんど行われていない。
サケはなぜ日本から3000kmも離れたベーリング海まで泳いで行くのか? これまで実施されてきたような多個体のデータに基づく推定――回遊経路では、この問いに答えられず、これを定かにするためには、サケの長期間の回遊を個体ごとに追跡する手法を開発し、多くの個体が共通して利用する"重要な海域"を特定する必要があると考えたという。
JAMSTECと東北大学の研究グループは、水産研究・教育機構、北海道大学、東京大学及び地球研の研究者と共同で、海洋の同位体比地図(アイソスケープ)を用いてサケの回遊経路を個体レベルで推定する手法を開発した。サケの背骨に記録されている過去の窒素同位体比の履歴と、北太平洋における窒素同位体比の分布地図から、サケの回遊経路を個体ごとに推定する統計モデルを構築し、解析を行った。
結果、日本近海からベーリング海へと北上する既知の回遊ルートを再現し、サケが成長の最終段階すなわち性成熟時期に餌資源のとても豊富なベーリング海東部の大陸棚に到達することを初めて明らかにした。この海域がサケの大回遊のゴールだと考えられる。北太平洋を回遊する多くの海洋生物にも適用できるだろうという。研究成果は、学術雑誌「Ecology Letters」に掲載された。