脳内の情報表現を可視化・解読、さまざまな認知機能の定量比較へ

見る、聞く、記憶する、想像する、判断する。われわれの日常生活は多様な脳機能の複合によって支えられているが、これまでのヒトを対象とする脳研究は、数種類の知覚・認知課題を用意して脳活動を計測する研究がほとんどであった。

人間の日常を司る複雑で多様な認知機能が、その総体としてどのように脳に表現されているかは、明らかにされていなかったという。NICT脳情報通信融合研究センター(CiNet)のグループは、103種類もの大規模な認知課題群を実施する際の脳活動を測定するfMRI実験を行い、認知機能と脳活動の関係を説明する定量的な情報表現モデルを構築した。

このような大規模な認知課題群を用いて個別被験者を対象とした脳情報表現モデルの構築を行うことは世界初の試み。これにより、認知情報が脳内でどのように表現されているかを示す脳内情報表現空間、およびその全脳分布を示す情報表現マップを多様な認知機能について作成すること、そして、被験者が実施している認知課題を脳活動から高い精度でデコーディング(解読)することにも成功した。

実験では、被験者に3日間日常を司る多様な認知課題を実施してもらい、その際の脳活動をMRI装置で測定。測定した脳活動に対し、2種類の情報表現モデル――課題の各特徴量を1か0で離散的に表した課題種類モデル、およびそれによって得られた大脳各部位の寄与データと、脳機能イメージング研究データベースを照合して課題を高次元(715次元)の認知因子の空間で表した認知因子モデルとを構築し、解析を行ったという。

人間の認知機能をこれまでになく大規模かつ詳細に解析したもので、脳内認知情報表現の一層包括的な理解や、個人の発達・加齢や個性に対応した認知機能の比較定量手法の開発等の応用につながると期待される。同グループの研究成果は、英国科学雑誌「Nature Communications」電子版に掲載された。