マウスの脳血管ネットワーク、構造と機能が明らかに

脳は3次元に広がる血管網によって栄養供給を受けている。血管と組織中の物質交換は、多様な細胞からなる血液脳関門によって制御されている。そのため血管網の構造と機能、それらの周囲組織との関係を記述することは、脳の栄養供給様式の理解に重要であることが推察される。

そのような研究はしかし、技術的な問題から進んで来なかった。薄層切片を用いた古典的な組織学では血管は切断されるため、その接続関係の情報は失われてしまう。接続関係を調べるためには標本を3D観察する必要があるが、そこで古くから用いられている血管腐食鋳造法は、微小血管の可視化に優れないうえ、周囲の分子情報を保存できない。

上記問題の解決が期待される組織透明化法は、既存の血管染色手法との相性が悪く、周囲分子を保存したまま全脳血管の構造を捉えることが困難であったという。東京大学大学院薬学系研究科の研究グループは、マウス全脳血管ネットワークの構造と機能を可視化する手法を開発した。独自の蛍光モノマーを用いた血管鋳造法と、それに最適化された組織透明化手法"SeeNet"を実現した。

ほぼ全ての脳血管を明瞭に可視化しつつ、周囲の組織中に存在するタンパク質の抗原性や緑色蛍光タンパク質等がもつ蛍光を保存していた。SeeNetの応用例として、全脳血管のイメージングにより、未知だった皮質と海馬の細動脈/細静脈を繋ぐ微小血管を報告した。発現分子が紐づけられた脳血管の3Dトレーシングや、血管の構造・機能と周囲の細胞との関係を調べるのに有用なツールとなることが期待される。

それらの研究でもたらされる知見は、血管から得られる信号を神経活動に相関する指標として用いる、機能的MRIのデータ解釈への応用も予想される。ゆえに基礎的な研究だけでなく、臨床的な研究にも役立つ可能性が考えられるという。研究グループの成果は、Nature Communications誌に掲載された。