乳がん摘出後の乳房再建術では、術後の変位や周囲の組織線維化を予防したシリコン製インプラントが主に使用されていた。日本の健康保険で唯一認可されていたそれが昨年7月、悪性リンパ腫発生との関連性が疑われ販売停止となった。
現在、その代替となる旧型インプラントは破損や波うち変形、被覆拘縮等の合併症リスクが不安視されている。患者自身の脂肪細胞を採取・注入する自家組織再建術も行われているが、その生着率(移植した組織が術後に機能している割合)は患者背景でバラツキがあるうえに、移植の度に患者に負担が生じる問題を抱えていたという。
大阪大学大学院工学研究科の松崎典弥教授および凸版印刷(先端細胞制御化学(TOPPAN)共同研究講座)のFiona Louis特任研究員、京都府立医科大学大学院医学研究科形成外科の素輪善弘講師の研究グループは、独自の組織工学技術により患者の細胞を用いて機能的な血管構造を有するミニサイズの乳房の再構築に世界で初めて成功し、小動物への移植実験で高い生着率を示すことを確認した。
I型コラーゲンのマイクロ線維(CMF)を用いた沈殿培養技術を応用し、血管網を持つ約900μmの乳房を再構築した。CMFが脂肪細胞と脂肪由来幹細胞、さらには血管内皮細胞の足場として機能し、実際に血管網が細胞へ栄養と酸素を供給する。およそ100個のミニ乳房を小動物皮下へ移植することで自発的に集合体を形成し、従来の吸引脂肪組織に比較して約2倍高い生着率が確認された。
患者由来の細胞を用いるため、高い安全性が期待される。ミニ乳房は注射器での移植が可能で、患者負担を大きく軽減できる。独自培養技術により患者の脂肪組織を体外で複製――自由に移植量や移植時期を調節することも可能になる。JST未来社会創造事業で得られた成果を応用した、研究グループの成果は3月の「第19 回日本再生医療学会総会」にて発表される予定だ。