生命活動に必要な遺伝子群を含む一組の染色体をゲノムという。ヒトのゲノム情報は約32億塩基で構成されている。個人の特徴と密接なそのデータは、法的にも個人を識別するものとされ、特段の扱いを受ける。
次世代シークエンサ(NGS)を用いた高精度のゲノム解析では、900億塩基以上のデータを取得する。複数人分を解析する際NGSが一度に出力するデータは数百GB(ギガバイト=8×1024メガビット)を超える。大規模かつ秘匿性の高いデータの保管と移送には非常に高水準のセキュリティが求められる。ゲノム研究において、大量のゲノム配列情報を移送する従来手法はコストと時間が課題になりつつある。
施錠機能付ハードディスクをセキュリティボックスに入れて運搬するなどの方法が採られている。他方、近ごろ先進諸国で研究されている量子暗号通信技術は、今でも鍵配信速度が最大10Mbps(メガビット/秒)程度。大規模なデータ伝送に適していなかったという。東芝と東北メディカル・バンク機構(ToMMo)は世界初となる、量子暗号通信を用いた全ゲノム配列データ伝送に成功した。
両者は今回、膨大なデータを逐次暗号化・逐次伝送するシステムを新開発した。NGSが出力するゲノム解析データと、量子暗号装置が出力する暗号鍵を、暗号技術ワンタイムパッドによって逐次暗号化して即座に送る――NGSの動作に合わせた逐次データ伝送により、大規模かつ秘匿性の高いゲノムデータ伝送処理の遅延を少なくできる。技術を活用し、それを実証した。
東芝ライフサイエンス解析センターとToMMo間約7kmの専用光回線にて、12検体分の全ゲノム配列データを2度にわたってリアルタイム伝送した。量子暗号技術がゲノム解析データを扱いうる、実用レベルであることを確認した。研究の一部は内閣府SIP「光・量子を活用したSociety 5.0実現化技術」(管理:QST)によるものだという。