秘密分散×秘匿通信にて電子カルテをセキュアバックアップ&相互参照

医療機関の多くが倒壊し、電子カルテもサーバごと流されてしまった。東日本大震災を教訓に、重要な医療データは遠隔地にバックアップし、いざ災害時にそれを活用――多くの人を早く診療、治療するため、必要最小限の項目を迅速に復元することが求められている。

患者の氏名、住所、生年月日、プロファイリングに要する投薬、アレルギー情報などの復元が重要になる。一方、電子カルテのバックアップデータは、究極の個人情報であり、適切な暗号技術を用いて安全にバックアップする必要がある。さらに、共通のデータ交換規格を活用すれば、異なる医療機関の間でも医療情報を安全に相互参照できるため、検査・投薬の重複防止や新しい医療技術の開発などにつながる。

が従来、電子カルテデータのセキュアなバックアップおよび相互参照、災害時に必要な医療データ項目の迅速な復元という要件を全て満たすシステムは存在していなかったという。NICT高知医療センターおよび連携協力機関から成るチームは、秘密分散技術と秘匿通信技術を組み合わせることにより、それらを全て可能とするシステム(H-LINCOS)を開発した。

同システムを用いた実証実験では、800 km圏のネットワークで結ぶ高知医療センターと大阪、名古屋、大手町、小金井にあるデータサーバに、1万人分の電子カルテの模擬データを分散保管。次に、南海トラフ地震等により四国エリアが被災したというシナリオの下、各データサーバから処方履歴、アレルギー情報などの災害時医療に必要とされるデータ項目を小金井のサーバ上に復元し、衛星回線経由で高知医療センターの端末に伝送した。

その結果、高知医療センターの端末で患者検索してから9秒以内で医療データを復元することに成功した。これは、救急時の猶予時間といわれる15秒程度の要求に応えるものである。今回の結果により、災害時に必要な医療データを迅速に届けることが可能になり、災害医療に大いに役立つことが期待される。また、地上網が使える平時においては、医療機関の間で電子カルテデータを相互参照することが可能になるという。

NICT、高知医療センターとともに、高知工科大学がH-LINCOSの要件定義と秘密分散方式の設計、ZenmuTechが高速秘密分散ドライバーソフトウェアの開発、芝浦工業大学がD24Hとの連動によるH-LINCOSの災害医療への適用に向けた最適化、SBS情報システムが電子カルテビューアの開発、スカパーJSATが衛星通信回線の提供、NECが高知医療センター・NICT小金井間の秘匿通信回線構築、ISARA Corporationが保健医療分野のための耐量子-公開鍵認証方式の開発、ダルムシュタット工科大学がセキュアなアクセス管理と改ざん防止法の開発を担当した。

チームの成果は今月16日、京都で開催される日米欧量子技術国際シンポジウムにて発表される。