アーク放電を3Dシミュレーション、鉄道架線トラブルを防ぐ

弧光、電弧ともいわれるアーク放電は、両極間の気体中に大電流が生じて、強い熱と光を発生するものである。鉄道車両のパンタグラフ等が架線から離れる際に、それが発生すれば故障原因となり、復旧には長時間を要する。

5000℃以上で強い光を発するアーク。鉄道における離線アークは、パンタグラフの溶損による事故、アーク長の増加による地絡事故などを引き起こす。この現象を解明するために従来、円筒座標系と呼ばれる2次元空間において、電磁熱流体シミュレーションを行い、多くの研究成果をあげてきたが、実現象はより複雑であり、シミュレーションを基にした設計開発は困難であったという。

東京都市大学の岩尾徹教授は、トロリー線やパンタグラフのすり板などで起こる、周囲からの風、電極蒸発時に生じる金属蒸気、電極からのジェット、電気配線からの磁界など外乱を考慮した、これらを防ぐための3次元電磁熱流体シミュレーション技術を開発した。5年の歳月をかけて具現化した同技術では、分子、原子、イオン、電子のレベルで、離線アーク放電現象を精密かつ短時間に模擬実験できるという。

離線アークの振る舞い、ならびにアークによる材料の損傷を明らかにした。計算プログラムは岩尾研究室が独自開発したもので、市販品では実現不可能なリアルスケールの放電シミュレーションを実現し、物理現象を解き明かせる。その一部を米国「GEC2019」で発表した。今回の成果を発展させることで、架線トラブルによる運転見合わせを減らせるほか、架線の溶損を抑えてメンテナンスコストを低減できる。

塩害や霜による故障や火災、より断面の小さいトンネル内架線トラブル等の対策のためにも、各種外乱を考慮できる3Dシミュレーションによる物理現象の解明は必要不可欠であり、この度の知見は電力用のガス・真空・空気遮断器の設計や開発にも応用可能。金属加工、照明、廃棄物処理その他、適用範囲が広いという。