まずは哲学・東洋的自己観をもとに、リアルとバーチャルを融合する

IT(情報技術)の浸透が人々の暮らしをより良い方向に変えていくという、デジタル変革が花盛りである。今、次世代のコミュニケーションは、遠隔診療、防災、教育、自動運転、金融、エンタテインメント、スポーツ、製造など、多彩な分野にわたって社会や生活を変えていく可能性を秘めている。

コミュニケーション基盤技術の進化により、今後、現実世界におけるモノやヒトのやり取りをサイバー空間で自由自在に再現、試行させることも可能になると予想される。一方、コミュニケーション環境の急激な変化は、個人と他者との関係性、リアルとバーチャルの境界など多方面での社会的変化を伴い、新しいテクノロジーに、人々がストレスや不安を感じていることも否定できないという。

京都大学NTTは、未来のコミュニケーション基盤「IOWN(アイオン:Global Forum)」が実現する世界に向けて、出口康夫文学研究科教授を中心としたグループとNTT R&Dとの協働により、テクノロジーの進化と人が調和する新たな世界観を構築するプロジェクトを発足。まず、領域横断的な知としての哲学を導入し、同教授による東洋的自己観をもとに、現実と仮想の融合世界での存在などについて、新しい解釈の構築を目指す。

並行的で断絶したパラレルワールドではない新たな世界観――。リアルとバーチャル(デジタルツイン)に存在する自己や他者は、ともに場や物語から促されて共同行為をする存在と捉える、包摂的なパラレルワールド観を導入する。さらには、生命倫理や情報社会論といった京都大学の人文知とNTT R&Dの協働を通して、IOWN構想が実現した世界における人の生きがいや倫理、社会制度などを検討する取り組みを推進するという。

両者は今後、同プロジェクトの成果をIOWNの社会実装版に反映していくことにより、テクノロジーの進化と人が調和する豊かな未来の構築に向けて貢献していく考えだ。