クライオ電子顕微鏡法の1つである単粒子解析法は、X線結晶構造解析に必須な試料の結晶化が必要なく、核磁気共鳴分光法注のように試料の分子量の上限がない。さらに、ごくわずかな水溶液試料で原子レベルの分解能を達成できる。
そのため同手法は、構造解析の基盤技術のひとつとしてその立場を確立している。が、ランダムに配列された目標分子の画像を多数使用するため、目標分子を細胞内から取り出し、精製する操作を要し、生体内に存在する状態を捉えることはできない。特に細胞膜中に存在するたんぱく質において、界面活性剤で膜から剥がす際に分子構造が変化してしまうことなどにより、細胞膜に入り込んだ状態での機能の解明が困難な場合がある。
ゆえに構造と機能の相関の研究では、細胞膜中に存在する状態で立体構造を分子レベルで解明できる手法が求められていたという。東京医科歯科大学の研究成果を基に、日本電子が平成27年3月から4年にわたり開発を進めていた――。藤吉教授らによるIBSA法の実用化に関して、JSTは今月6日、産学共同実用化開発事業(NexTEP)における「実環境高分解能3次元生体構造解析システム」の開発結果を成功と認定した。
同社が市販する原子分解能電子顕微鏡に、試料の自動搬送や液体窒素の自動供給機構を持つクライオステージを組み込むことで、クライオ電子顕微鏡を完成させた。IBSA法についてはアルゴリズムの構築、検証および同法に適した試料作製条件の検討などを行った。クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析の結果、酵素の1つ、β-galactosidaseについて、FSC法による評価(FSC=0.143)で分解能0.27nmを得られたという。
今回の開発によって、これまで困難だった生体膜内でのたんぱく質の構造解析が可能となり、生体機能の解明や創薬研究においてクライオ電子顕微鏡が大いに貢献するだろう、期待が高まっているとのことだ。