細胞の移動方向を"畳み込みニューラルネットワーク"にて予測

近年、様々な分野でディープラーニング(深層学習)が脚光を浴びている。与えられたタスクに応じて画像から重要な特徴を自動抽出する人工知能(AI)、深い層を持つ脳神経回路網を模したその中核技術を「畳み込みニューラルネットワーク(CNN)」という。

生物学の分野において細胞を分類する問題にCNNが応用されるようになり、これまでに多数の目覚ましい結果が報告されている。現在までに提案されたこれらの応用事例は細胞の画像から現在の細胞の状態を分類するものに限られている。一方で、ダイナミックに形状を変化させる細胞において、現在・過去の細胞形状が未来の細胞の運命に影響することがこれまでの分子生物学の分野において示されてきたという。

今月5日、慶應義塾大学山口東京理科大学は、両者の共同研究グループが、細胞が遊走(移動)する際には事前にその形状を変化させる――性質を利用し、現在の細胞の画像から未来の移動方向を予測できるCNNを用いたAIを開発したと発表。

それを実装したAIは、マウス線維芽細胞などにおける未来の移動方向を4方向(左上、右上、左下、右下)とした場合、80%以上の精度で予測可能であることが示された。さらにAIが学習した画像内の特徴を調べることで、細胞が遊走をする際に前部に形成されることが知られている細胞突起及び細胞後縁部の特徴的な形状を元に未来の移動方向の予測をしていることを示した。

生物学的な根拠に基づく未来予測を行っていることを明らかにしたという。同研究グループの成果は、現在の細胞の画像から未来の状態を予測するためにAIが有用であることを示していて、このことは医療分野などにおいて未来の予測が強く要求されるガンの予後診断などへの応用が期待される。JSPS科研費(JP16H04731)の助成を受けて行われた今回の研究とその成果は、学術雑誌「PLOS ONE」オンライン速報版にて公開された。