心磁図とCT画像を正確に合成、不整脈治療を受ける体の負担軽減へ

心臓の電気生理学的活動にともなう心起電力(電流)により生じた磁場(心磁)を記録したものである。心磁図は、一般によく知られている心電図よりも心臓周辺臓器の影響を受けにくく、心臓の電流を高感度に計測することができる。

現在、その症状によっては日常生活に支障をきたしたり、生命に危険を及ぼしたりすることがある「不整脈」の治療法として、太ももや手首からカテーテルを心臓まで入れてその発生部位を探し、当該部位を焼灼する高周波カテーテルアブレーションが普及している。この治療法は、心室期外収縮による心筋症や心不全の予防で、確立された選択肢となっている。がその有効性や安全性は、不整脈が心臓のどこから発生しているかによって異なる。

たとえばヒス束(心臓を収縮させるための電気信号を心筋に伝える刺激伝導系の一部で、心室中隔の上部に位置)や冠動脈の近傍から不整脈が発生している場合、ヒス束や冠動脈を焼灼すれば重い副作用が生じるため、治療が困難なことがある。また、心臓の外側から不整脈が発生している場合、心臓の内側から焼灼することは難しく、アブレーション治療は適さない。

患者への負担なく、不整脈の発生部位を治療前に特定できれば、予め心室期外収縮へのアブレーション治療の適用可否を検討することができ、臨床上のメリットがある。そこで従来用いられてきた心電図は、空間分解能が低く、不整脈の発生部位と冠動脈との位置関係や、発生部位が心臓内外のどちら側にあるのかなど、正確な部位特定には問題があり、またそのことにより、十分な治療計画を立てにくいことも課題になっていたという。

筑波大学医学医療系の教授らと日立製作所は、心磁図と心臓CT(コンピュータX線断層撮影)画像の合成技術(日立が開発)をもとに、心臓CT画像から別途作成した心臓の3次元モデルを活用することにより、心室からの不整脈の発生部位を身体への負担なく高い精度で特定できることを明らかにした。新たな技術を用いて不整脈の発生部位の特定を試み、心電図に比べてその精度が飛躍的に向上することを見出した。

心室期外収縮に対してアブレーション治療を実施した患者18例を対象に、上記新技術で特定した不整脈の発生部位と、アブレーション治療により得られた不整脈の発生部位を比較したところ、18例中17例(94%)で一致。また心電図では把握が困難であった不整脈の発生部位が心臓内外のどちら側にあるのかについても、合成画像により特定できることが示された。

不整脈の発生部位を治療前に特定することで、一層緻密な治療計画が立案でき、患者負担の軽減に資すると期待される。JSPS科研費の助成を受けた研究の成果がJACC: Clinical Electrophysiologyで公開された。研究グループは今後、より罹患率が高くアブレーション術の主要対象疾患である「心房細動」の治療にこれを応用していく計画だ。