2種の化学分野が融合、次世代の医薬品・農薬開発の基盤技術に

インドールアルカロイド類は骨格の多様性に富んでいて、毒や薬(モルヒネやビンカアルカロイド系抗ガン剤等)の宝庫となっている。複雑な構造を持つアルカロイドの化学合成では、標的とした単一の分子骨格に対してテーラーメードな合成法を開発するのが一般的だ。

それに対し菌類や植物は、多彩な反応性をもつ共通の鍵中間体を巧みに活用して、骨格の異なる天然物群を生合成――。多様な化合物群を創製するプロセスの重要性が近年認識されるようになったが、骨格のバリエーションを系統的に生み出す化学合成法の開発は草創期を出ない。アルキン(炭素-炭素の三重結合)とインドールとの反応を制御できれば、インドールアルカロイドに類似した多様な骨格群を構築できるであろう。

が現時点では、アルキンの活性化に有毒な水銀試薬や高価な金触媒が汎用されている。金触媒による従来法は、構築可能な骨格の種類が限られていて、酸の添加が不可欠。制約があったという。東京農工大学工学研究院応用化学部門、北海道大学理学研究院化学部門と化学反応創成研究拠点は、共通の基質から複雑な三次元構造を持つ含窒素縮環骨格(4種類)を作り分ける迅速合成プロセスを開発した。

亜鉛試薬を共通の基質に作用させて環化様式を制御し、インドールアルカロイド骨格群の作り分けに成功。計算化学と実験化学との融合により意外な遷移状態や反応経路を発見し、骨格の異なる化合物群を系統的に創出するための反応設計指針や合成戦略を提案した。様々な官能基が組み込まれた含窒素骨格群を自在に低コストで合成可能――次世代の医薬品や農薬等の開発につながる基盤技術として、更なる発展が期待されるという。

JSTさきがけJST CRESTJSPS科学研究費補助金旭硝子財団アステラス病態代謝研究会等の助成を受けて実施された。今回の研究成果は英国化学会誌『Chemical Science』電子版に掲載された。