情報を判断したり、覚えたりする心の働きである認知機能。すなわち記憶力、処理速度、抑制能力などは、加齢とともに低下していく。高齢者における認知機能の低下は、買い物や車の運転などの日常生活を困難にする要因の一つとなっている。
そのため、認知機能を維持・向上させるトレーニングの開発に多くの関心が寄せられていて、従来、脳トレゲームや音読・計算トレーニング、処理速度ゲーム、サーキット運動トレーニングを実施――これらによって、高齢者の認知機能が向上することを明らかにしてきたという。東北大学加齢医学研究所の研究グループは、自宅のTVで実施できる運転技能向上トレーニング・アプリを開発し、その効果検証を行った。
仙台市、塩竃市、栗原市で募集した健康な高齢者60人を、上記トレーニングを実施する「運転技能向上アプリ群」と、その他のゲームを実施する「対照アプリ群」に分け、無作為比較対照試験を行った。結果、1日20分の運転技能向上トレーニングを6週間実施したグループは、同じ期間他のゲームを実施したグループよりも、自動車運転技能と認知力(処理速度と抑制能力)とポジティブ気分(活力)が向上したという。
テレビのリモコンを使ってゲームをする、同トレーニング・アプリによって、短期間であっても高齢者の運転技能、認知機能や活力気分が向上することを初めて明らかにした。自宅TVを利用する認知トレーニングは、高齢者であっても取り組みやすいことから、高齢者の運転技能の維持・向上ためのツールや、高齢者の交通事故などの減少を目指した取り組みとしての応用が期待されるという。
研究は、仙台放送との産学連携による共同研究の一部を成すものであり、JSPS科研費および文部科学省卓越研究員事業の支援を受けて実施された。今回の成果は5月7日、国際的オンライン雑誌「Frontiers in Aging Neuroscience」に掲載された。