精度97%、小型コンピュータでも気温の上下を推定できる

今世紀最大の環境問題である。気候変動について、その予測はスーパーコンピュータによる物理計算が主流で、国家プロジェクト級の予算とマンパワーを必要としている。各国政府は研究を主導しているものの、将来予測の不確実性から逃れられないでいる。

原因は物理計算の根拠となるデータの不完全性。巨大な地球全体を細かく計算しようとすればするほど、精細なシミュレーションモデルとより大きなスパコンが必要となり、コストを膨張させる。新たな知見が得られるたびに、それを数式化して組み込まねばならない同モデルは、複雑で不安定なものとなる。複雑になるにつれて研究者のバイアス混入率が高くなるが、その防止策はあまり施されていない。

それらの問題点を、JAMSTECで気候変動シミュレーション研究に携わっていた際に感じていたという。京大フィールド研の伊勢武史准教授と大庭ゆりか特定助教は、過去の気温データから生成した疑似カラー画像をディープラーニング(深層学習)させることにより、単純作業を小型コンピュータで実行するだけで、10年間の平均気温の上下を最大精度97.0%で推定できる手法を開発した。

細かなパーツを積み重ねて全体を理解する従来の「ボトムアップ型」とは異なる、気候変動の機序をブラックボックスとしたまま確率的に傾向を理解する「トップダウン型」研究の有効性が実証された。全世界で温暖化が進むことは明らかだが、地域によっては温度上昇が緩やか、気温低下もあり得る結果となった。地域差の予測による気候研究や温暖化対策の進展への貢献が期待される。

気候変動予測の高精度化に加え、多様な学術研究や将来予測でのAI活用が示唆される。今回の研究はJST「さきがけ」、および日本財団京都大学の共同事業「森里海連環再生プログラム」にて実施されたものであり、成果は国際学術誌「Frontiers in Robotics and AI」に掲載された。