酸素吸蔵と放出、材料粒子内の酸化反応軌跡を可視化

近年、自動車排ガス浄化三元触媒など、さまざまな先端機能性材料の研究開発が進められている。複雑化する材料の構造や機能を明らかにするために要する、放射光計測は、飛躍的に高分解能化、高次元化されていて、量的に人間が直接扱える限界に達しつつある。

上記課題の下、データ科学との連携による高効率な化学情報の解析法が求められている。放射光施設を核に研究の進む「X線タイコグラフィ」は、X線の可干渉性(コヒーレンス)を用いた顕微法/イメージング技術であり、非常に高い空間分解能と感度を実現できる。試料の回折強度パターンに位相回復計算を行って試料像を再構成するため、レンズ性能に依らず空間分解能を大幅に向上させられる。

一方、「X線吸収微細構造(XAFS)法」は、X線吸収原子の局所的な電子状態(価数、対称性)と構造を得る手法であり、放射光で最もよく用いられる分析法の一つ。'18年開発の「タイコグラフィ-XAFS法」において、50ナノメートル以下の空間分解能で、不均一な試料中の微小領域の電子状態を調べられるようになったが、得られる試料画像はX線の光軸方向に平均化された2次元データにとどまっていたという。

理研RSCと、JAISTの共同研究グループは、コンピュータトモグラフィ(CT)との組み合わせによって、試料の3D空間分解XAFSを取得する「3次元硬X線スペクトロタイコグラフィ(3D-HXSP)法」を新たに開発し、データ科学と連携した解析により、酸素を吸蔵・放出する材料の粒子内で起きる酸化反応の軌跡を可視化。この3次元価数情報をデータマイニング(教師なし学習)させることで、セリウム-ジルコニウム酸化物固溶体に白金ナノ粒子を担持させた触媒粒子(Pt/CZ-X)内部へ酸化反応が段階的に伝播・進行している様子の可視化にも成功した。

大型放射光施設「SPring-8」で測定し、タイコグラフィの高空間分解能を維持したまま、セリウムを含む試料粒子のXAFSスペクトルの取得と価数分布の3次元空間可視化を認めたという。「3D-HXSP法」について、次世代放射光施設――数時間の測定で、数nmの空間分解能の3次元スペクトル計測を実現し、情報量が爆発的に増加し、測定データの解釈が一層難しくなると予想されるところで、効率的に先端機能性材料の機能の根源が理解され、設計・開発が促進されるだろう。

多彩な先端機能性材料のナノ構造・化学状態分析での応用が期待されるという。同研究グループの研究は 理研RSC主催の放射光連携研究「可視化物質科学」の一環として行われ、JST先端計測分析技術・機器開発プログラム「暗視野X線タイコグラフィ法の開発」、JSPS科学研究費補助金および特別研究員奨励費などの支援を受けて行われたものであり、成果は英国の科学雑誌『Communications Chemistry』オンライン版に掲載された。