抗酸化作用やエネルギー代謝に役立つ活性イオウ誘導体の開発に成功

ヒトの細胞の中ではアミノ酸の一つである「システイン」から、システインパースルフィドと呼ばれる代謝物が常に作られ、細胞を活性酸素から守ったり、ミトコンドリアでの呼吸を維持する大事な働きがあることが分かってきた。システインパースルフィドはこのような特徴的な働きから「活性イオウ」と呼ばれ、その生理作用が注目されている。

細胞内の活性イオウ含量を人為的に増やすことができる、いわゆる活性イオウ誘導体である「活性イオウドナー」は、活性イオウの働きを調べる重要なツールと期待され、世界中でその開発が進められている。一方、活性イオウドナーの病気に対する治療効果はほとんど知られていない。

そうした中、熊本大学大学院生命科学研究部の澤 智裕教授らのグループは、東北大学大学院医学系研究科 赤池孝章教授らとの共同研究により、細胞や組織に含まれる活性イオウと呼ばれる生体成分を人工的に増やすことができる新しい活性イオウ誘導体の開発に成功した。

この活性イオウ誘導体は保存安定性に優れ、また細胞に作用させると速やかに細胞内に浸透して細胞内の活性イオウ含量を大きく増加させる。マクロファージと呼ばれる免疫細胞を使った実験から、今回開発した活性イオウ誘導体が極めて高い抗炎症作用を持つことが明らかとなった。さらに、過剰な免疫反応の活性化によって致死的な病態となるエンドトキシンショックを起こしたマウスに活性イオウ誘導体を投与すると、マウスの生存率の著しい改善が認められた。

今回、新しい活性イオウドナーとして、人工アミノ酸の一種であるアセチルシステインにイオウ原子を複数連結した新規誘導体の合成に成功。この誘導体を細胞に作用させると、速やかに細胞に浸透し、さらに細胞内の活性イオウ含量が著しく増加することを明らかにした。

この活性イオウ誘導体を作用させたマクロファージでは、炎症を誘導するような様々な物質による刺激に対して、ほとんど応答しなくなっている、つまり炎症を起こさないことを発見した。そこで、炎症が過剰に起こることが原因で致死的となるエンドトキシンショックになっているマウスに、活性イオウ誘導体を投与したところ、生存率が著しく改善することを発見した。研究グループによると、今回の成果は、活性イオウ誘導体が炎症性疾患に対して治療効果を持つことを示した初めての結果だという。

今回の結果は、活性イオウが免疫機能の調節に密接に関わることを明らかにし、さらにこの活性イオウを人工的に増やすことで炎症病態を改善できることを示した画期的な成果だといえる。今後、活性イオウを基軸とした新しい抗炎症療法への展開が期待される。