悪性黒色腫の進行度を熱伝導率で判定、皮膚がんの新たな検査機器の開発に期待
ほくろのがんである悪性黒色腫は、進行すると命に関わる皮膚がんであり、日本国内で毎年600~700人が亡くなると言われている。早期発見、診断、治療が重要であるが、進行度の診断は専門医でも難しい場合がある。また、診断が確定するまでに2、3週間の期間を要する。
東北大学大学院医学系研究科皮膚科学分野の相場節也教授、東北大学病院皮膚科の藤村卓講師、弘前大学大学院理工学研究科の岡部孝裕助教、八戸工業高等専門学校の圓山重直校長らの研究グループは、皮膚がんの進行度を熱伝導率で判定することに成功した。現在、検査機器として開発を進めている。
悪性黒色腫は、血管やリンパ管を持たない皮膚の最外層である「表皮」から発症するが、この表皮内がんの段階では転移しないため、転移の有無を調べるための全身の画像検査を行わなくても問題はない。しかし、がん細胞が血管やリンパ管を豊富に持つ「真皮」に進行した早期真皮湿潤がんでは、リンパ節や他の臓器に転移する可能性がある。そのため、他の臓器に転移していないかをなるべく早期に検査する必要がある。
そのため、がん細胞が真皮に進行しているかどうか判断することが重要となっている。現在は手術前に、がんを外科的に切除する試験採取を行って真皮に進行しているかどうかを判断しているが、診断が確定するまでには2、3週間の期間を要している。また、皮膚がんの初診時診断は、主にダーモスコピーを用いた視診により行われるが、この診断は皮膚科専門医であっても、ときに苦慮することがあり、悪性腫瘍の発見が遅れ治療に影響を及ぼすことがあるという。
今回、研究グループは、熱伝導率を用いた皮膚がんの検査機器を開発し、悪性黒色腫11例において、より早期かつ簡便に皮膚がんの進行度を判定することに成功した。精密な温度測定において広く用いられているサーミスタという機器を応用して、非侵襲的に皮膚表面の温度を測定する技術を開発した。この検査機器は、皮膚がんと隣接する健常組織との熱伝導率の差を数値化して診断の指標とすることで、皮膚がんが良性か悪性かを判定する。
本検査機器の開発が進めば、皮膚科専門医でなくても悪性黒色腫の進行度を迅速かつ簡便に判定することが可能となるため、迅速に最適な治療を開始できるようになり、多くの皮膚がん患者のQOL向上に寄与することが期待される。