船舶自動運航を後押しする高感度赤外線カメラの小型化技術を開発

富士通研究所は、夜間および遠方を高精細に撮影する高感度赤外線カメラを8分の1に小型化する受光部のセンサーを開発した。昼夜を問わず全周囲を6海里先まで監視でき、AI技術と組み合わせることで自動識別が可能になるという。

国際貿易の活発化に伴う海上輸送量の増加や船舶自動航行化への期待の高まりを受けて、安全航行のための技術確保が求められている。航行中は、周囲の船舶やブイなどの障害物を正確に把握し、事故を回避することが重要だ。そのためには、およそ6海里(約11km)の把握が必要とされており、昼夜を問わずに6海里先までの海上を高精細に撮影可能な高感度なカメラの活用が期待されている。

夜間・遠方を含めて高精細に撮影できるカメラとして、普及型赤外線カメラの約2倍の距離を撮影可能な高感度赤外線カメラが注目されている。しかし、高感度赤外線カメラは、赤外線を吸収する受光部のセンサーが熱雑音に弱いため、動作温度をマイナス178℃と非常に低い温度に保つ必要がある。このため、受光部を強力に冷却する装置を搭載する必要からカメラ全体が大きくなり、全周囲監視のために多数のカメラ配備が求められる船上などでの利用には適していなかった。また、カメラ全体を小型化するためには、受光部センサーの動作温度を高温化して冷却器の負荷を低減することが大きな課題だった。

今回、従来の高感度赤外線カメラの感度を下げることなく、受光部センサーの動作温度を高温化するための半導体構造を開発した。これにより、受光部センサーの実用的な動作温度を従来と比べて50℃以上高いマイナス128℃まで緩和することに成功し、冷却部を含むカメラ全体のサイズを約8分の1に小型化することが可能になった。

小型化した高感度赤外線カメラの多数配備により、航行を阻害する6海里先の船舶や小型障害物を昼夜を問わず死角ゼロで正確に捉えられる。また、今回、高感度赤外線カメラで撮影した映像と、富士通のAI技術(深層学習アルゴリズム)を組み合わせ、遠方の船舶を検知する実験を行ったところ、誤検知や見落としが極めて少なく、高い識別性能(2~3海里先においては識別率がほぼ100%)を確認した。

これにより、小型化した高感度赤外線カメラの高精細な映像から自動で周囲を監視するシステムを実現し、海難事故の回避や自動航行への活用が期待できるという。